テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
52
183
#へたくそだけど許して
結月
23
#元カレ
まぁ
30,752
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
春が来て、私、柚乃、そして碧斗は大学四年生となり、戸崎はこの街で新社会人として働くことになった。
いまだに私と柚乃の関係はぎくしゃくしていた。
柚乃に悪気がないと分かっていながらも、どうしても感情を抑えきれなかったあの時のことを、私はだいぶ後悔していて、姉に謝りたいと思っていた。けれど、詫びの言葉をいざ口にしようとする度に、碧斗と私とを勝手にくっつけようとする柚乃の勝手な想像話が思い出され、頑なな気持ちになってしまう。先に謝るべきなのは柚乃なのだからと思い直しては、喉元まで出かかった「ごめんなさい」の言葉をごくりと飲み込むということを、もう何度も繰り返していた。
私がそんな態度であっても、柚乃は悲しい顔をしながらも私と会話をしようと試みていた。けれどある時から、姉の方もまた、私と目を合わせようとしなくなった。
柚乃の帰りが以前よりも遅くなったのは、それとほぼ同じ頃からだった。そのため、家の中で姉と顔を合わせる頻度がめっきりと減った。
柚乃の遅い帰宅理由が気になった。それを知っていそうな母に訊ねてみようと思ったが、やめた。姉と顔を合わせてしまう度に緊張したり、自己嫌悪に陥ったりと、悶々とすることが減ったのだから、今はそれだけで良しとすることにした。
しかしある時、柚乃が遅く帰ってくる理由の一つを知ることになる。
その夜、ダイニングから母と柚乃の話し声が聞こえてきたのは、入浴を終えて廊下に出た時だった。聞き耳を立てたつもりはなかったが、扉に隙間でも空いていたのか、話の内容が聞こえてきたのだ。柚乃は私が入浴している間に帰宅したらしく、母のお喋りを肴に遅い夕食を取っていた。
「恭一君、喜んでるんじゃない?柚乃の手料理」
母に問われた柚乃は照れ臭そうに答える。
「助かってるとは言ってくれてるかな。働き始めて色々大変みたいだから、少しでも何か役に立ててるなら嬉しいんだ」
どうやら姉は時々戸崎の部屋に行き、手料理を振る舞っているようだった。
そして私は二人の会話の様子から、母がすでにそのことを承知していたことを知った。それもそのはずかと、複雑な思いですぐに納得する。というのも、今では両親たちは彼を「恭一君」と呼ぶまでになっていたからだ。
両親公認の仲の二人の間に割り込む隙はない。私が戸崎の隣に立つ未来もない。そのことは、もう嫌と言うほど分かっている。私は静かに深いため息をつき、そっとその場から離れた。
この気持ちを持ち続けるのは、いい加減やめにしようと思いながら私は過ごしていたが、柚乃が不在のある日の夕食の席で、うきうきとした様子で母が言い出した。
「近いうちに恭一君を呼んで、また食事会でもしない?詩乃と柚乃の進級祝いも兼ねてね。あぁ、恭一君の就職祝いもやらなくちゃ。それでね、レストランを予約するっていうのはどうかしら?」
父はうぅんと唸る。
「恭一君を呼ぶんなら、レストランよりも、この前みたいにうちで食事をした方が気楽でいいんじゃないか?帰るのも楽だろうし。あぁ、だけど、料理を作るのが大変か」
「そういう時は、全部作るわけじゃないから大丈夫よ。でも、それもそうかもね。それじゃあ、柚乃に話して、恭一君に聞いてもらってから決めましょうか」
表情が固まりそうになるのをごまかすために、私はテーブルの上に肘を置き、頬杖をついた。戸崎への想いを消化、あるいは封印するためにはまだ時間が必要で、彼と柚乃が並んでいる場面を見れば、やっぱり辛い気持ちになるだろう。
その食事会に出なければいいのだろうが、その日は私も主役の一人になるらしいから、そういうわけにもいかない。その場にいなければならないのなら、碧斗にしたら迷惑な話かもしれないが、私の心の逃げ場所として、今回も私の隣にいてほしいと思ってしまった。
私は両親に提案する。
「私たちの進級祝いなら、碧斗も呼んじゃだめ?」
「碧斗君?」
「うん。だって、私と柚乃と碧斗の三人は、ある意味もう兄妹みたいなものじゃない?だから、一緒にどうかなって思ったの」
それもいいかもしれない、と父は頷く。
「それなら、碧斗君のお母さんも一緒に呼んだらどうだ?母さんの友達なんだろ?昭夫君が単身赴任でいない家に一人でいるより、うちで皆で賑やかにした方がいいだろう」
「確かにそうね。後で聞いてみるわ。詩乃からも、碧斗君にさらっと聞いておいてくれる?そういう計画があるんだけど、どうか、ってね。いつ頃なら大丈夫か、都合もね」
「分かった。後で連絡してみるよ」
その夜、私は早速碧斗に連絡を入れた。送ったメッセージが読まれたと思ったら、すぐに返信があった。その文面を見て、ほっとする。今回は遠慮すると返ってくるかもしれないと思っていたからだ。
『そっちの都合に合わせるから、だいたいの日程が決まったら教えて』
こうして、皆の都合がうまく合い、GWが始まった四月下旬、我が家で久しぶりの食事会を開くことになった。