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「何なの、ここは……?」
聖壱さんに後部座先のドアを開けられ、戸惑いつつも外へ出てみる。見たことも無い景色に、自分はどこに連れて来られたんだろうと不安になる。
「ここは選ばれた人間だけが暮らすことが出来る【ローズ・ヒルズ・ビレッジ】だ。香津美も名前くらい聞いた事があるだろう?」
「【ローズ・ヒルズ・ビレッジ】ですって⁉」
噂には聞いた事があるわ。旧財閥家が所有しているらしく……レジデンスにはビルの幹部、財閥の御曹司や令嬢が暮らしている。そして最上階に住んでいるのはもの凄い資産家なんだとか。
総合病院は日本有数の外科チームがいるし、産婦人科は芸能人やセレブの御用達。豪華な食事も出るらしく、いつも予約でいっぱいらしいわ。
そしてセレブ達御用達のテナント。今までどこのお店も取材に応じたことが無いらしくよくは知らないのだけど。
……そういった特別な人ばかりが集まる場所。それが【ローズ・ヒルズ・ビレッジ】なのだと、たいして仲も良くないお嬢様から何度も聞かされた。
「俺の会社もこのオフィスビルの中に入っているし、これから香津美と俺が住み新居もここだ。嬉しいだろう?」
さあ、喜んで見せろと言わんばかリの聖壱さんも表情。確かに私も岩崎の叔父様の姪として色んな所に連れて行ってもらったけれど、こんな特別な場所は初めてだわ。
「ここで長く暮らしたいんだったら、せいぜい頑張るんだな。奥さん?」
あら、私を挑発する気なのかしら? 良い度胸してるじゃない、今に吠え面かかせてやるわよ。性悪女の実力を甘く見ないでよね?
しかし……たった数日の間に、いったいどうしてこんな事になったのかしら。
二人だけの短いお見合いの後、聖壱さんが送った写真を見た叔父や両親は大喜びで……あれよあれよというに私たちの結婚が決まってしまって。
私達の気が変わらないうちに入籍だけでも、と書かされ提出した婚姻届け。結婚式は大規模になるためこれから決めていくことになった。
入籍が済んでも結婚式まで別居でもいいのではないかと話したんだけど、周りに大反対されて……
結局こうして今日から二人で一緒に暮らすことになったのよ。
聖壱さんに連れられてレジデンスの中へ。
レジデンスの中もとても綺麗で華やか。床だってびかぴかに磨き上げられているし、二十四時間対応のコンシェルジュはきっちり礼儀正しい。
「聖壱さんはずっとレジデンスに住んでいらしたんですか?」
「いや、香津美との結婚のために用意した。新婚生活なんだ、少しくらい華やかな場所の方がいいだろう? オフィスにも近くなるしな」
もしかして私のため……な訳ないわよね? きっと相手が私でなくても聖壱さんはこの場所を選んだはず。それにしてもこのレジデンスは一戸数億円って聞いたような気がするのだけど……
お金持ちのお金の使い方はよく分からないわね、私もお嬢様だったんだけどやはり違いがありすぎる。
「ほら、ボーとしてないで中に入れ」
聖壱さんに呼ばれて考え事を止めて、私たちの新居となる部屋の中に入る。
玄関も広くて綺麗、キッチンは使いやすく丁度いい高さだった。リビングも大満足の広さで、これなら快適に暮らせそう。
「こっちが寝室だ」
ドアを開けられ中を覗くと、真っ黒なキングサイズのベッド。どう考えても一人で眠るには広すぎるそれ。えっと、これはまさか……
「あの、私の寝る場所はどこかしら……?」
恐る恐る聞いてみる。ちゃんと契約の内容を確認していなかった私も悪いのだが、まさか一緒に寝なきゃいけないなんてこと無いわよね?
だって、私達は《契約結婚》なんだもの。
「このベッド以外のほかにベッドが見えるのか、お前は。俺は十分二人で眠れる広さを選んだつもりだぞ?」
「……そうよ、ね」
余程寝相が悪くない限りはこの広さがあればいいでしょうね。だけど、私が心配しているのはそういう事じゃないのよ。
「何だ? 何か気になっている事があるのならさっさと話せ」
「いいえ、何でもないわ」
聖壱さんは様子のおかしな私に気付いて、何か不安な事があるのか? とも聞いてくれた。でも男性経験の全くない私からはとても言い難い話で……
結局、聖壱さんに何も話す事の出来ないまま夜を迎えてしまった。
「聖壱さん。私、大事なお話があるんです……」
私は意を決して彼に、自分の中で結婚前から決めていたことを話す事にした。