イデアベルクは人間よりも獣が多い。意識して集めたわけでは無く、自然と増えて行った。エルフとドワーフを抜きにしても、ネコ族を筆頭に様々な獣、それも獣人ばかりが多くいる。
獣人の多くは、見た目はほとんど人間と言っていい。しかし人としてよりも獣として生きてきた者が多いので、夜に動く者が圧倒的だ。森林区の一角にはそうした獣人たちが多数暮らしている。普段はミルシェに従うように伝えているだけに、おれにはどういう反応を示すのか。
それにしても真っ暗すぎる。夜だからとはいえ、灯りを照らずに生活しているのは平気なのだろうか。中には夜目が利かない者もいるはずなのだが。
獣の森には人間が暮らす家と遜色のない小屋がいくつも建っている。それでも種族によっては外で暮らす者もいて、ある意味自由な場所だ。
「――確かこの辺の木に……」
「アックさんだ! アックさん。よく来たのじゃ!」
「おっ!」
「よく来た、来た! 木の葉の上、暖かいのじゃ。ここ、来て!」
獣人たちにもリーダーがいて、上手くまとめてくれる者が存在する。盟約を結ぶにはリーダーと話をつけるのが一番手っ取り早い。
「エルシーさん、起きてたのか!」
「んむ。夜鷹《よたか》、夜、強い! アックさんも強い?」
「まぁ、弱くは無いな」
獣人をまとめているのは、鳥獣族のエルシーという女の子だ。見た目は小さな女の子だがかなり長く生きているようで、長老クラスと言っていいだろう。
鳥に戻った時の姿は、フクロウに似ている上にモフモフ度がかなり高い。人の姿の時も撫で甲斐のありそうなまんまるい頭で、とても可愛い姿をしている。
それはともかく、獣の森をまとめる彼女に話をつけておけば獣人たちも安心するのは間違いない。
「危機、危機が迫る?」
「――え? 既に伝わっている?」
「エルシー、これでも偉い! こう見えても、獣のリーダーなのじゃ!」
高音を発しながら話す彼女は堂々とした態度をおれに見せつけているが、この辺りはさすがだ。
「話が早くて助かる。それじゃあ、盟約を交わ――」
「アック、風でどれくらい飛ぶ、飛べる?」
「風魔法でだと浮くってのが正しいな。それがどうかした?」
「……アックとの盟約、飛行の盟約にするのじゃ! アック、きっと飛べる」
――ということで風で浮くよりも、ほんの少しだけ飛べるようになってしまった。
魔力を消耗しなくていいのはかなり助かるが、魔法による防御や遠隔攻撃からの防ぎについてはこれから慣らしていく必要がある。
「おぉぉ……」
「これでいつでも一緒、一緒なのじゃ!! アック、また来て~」
「分かった、ありがとうエルシーさん!」
鳥人族の加護を得たのは大きいな。他の獣人とはまた別の機会に話すとして、そろそろ家に帰るか。
そういえば、ルティをずっとほったらかしにしていた気が。家に帰る前にこぶし亭に行ってみることに。
◇◇
ルティの”こぶし亭”は、彼女よりもネコのスタッフたちが張り切って働いている。そのおかげでいつ行っても開いているので、その辺は助けられていることが多い。
居住区の端ではあるが、明るさを放っていていつも賑やかだ。
「いらっしゃいませニャ!! あれれ、アックさまニャ!」
「ルティはいるかな?」
ニ、三人のネコスタッフたちは顔を見合わせて、それぞれ戸惑いを見せている。
「ニャ? 来てないニャ」
「見ていないニャ」
「お魚たくさん釣って来てたニャ!」
一体どれだけ釣っていたんだろうか?
――ということは、一度はここに立ち寄ったみたいだな。
「なるほど、それじゃあ……帰って来るまで何か食べようかな」
「毎度ありがとうございますニャ~!」
こんな遅くまでどこに行ったのだろうか?
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