どんな理屈よりも、
今、元貴のそばにいたいという気持ちのほうが、
ずっと、ずっと、強かった。
「ひとりにしたくない」
エレベーターを待つ間、俺は一人呟いた。
Overlook:
エレベーターの中、
若井は、スマホを開き、画面をじっと見つめたまま指を動かす。
「今どこ?」
既読はすぐに付いた。
でも返事は来ない。
なんとなく、そうだろうなと思っていた。
深夜の東京。
走っている台数もまばらなタクシーを
若井は大通りまで出て、なんとか捕まえる。
運転手に行き先の住所を告げて、
後部座席のシートに背中を預けた時だった。
「部屋にいる」
その一文だけが、ぽつんと届いた。
沈黙の中に滲む、元貴の癖。
既読から時間が経って
届くメッセージ。
元貴は、「来て欲しい」なんて絶対言わない。
でも、「部屋にいる」って答えたのは──。
若井は、それでも、怖かった。
もし拒絶されたら、
ただの思い上がりだったら、
どうすればいいんだろうと考える。
それでも。
ーーーーーーー
「向かってる。」
「迷惑だったら、すぐ帰るから」
ーーーーーーー
それだけ打って、スマホを伏せた。
何ができるのか。
元貴を本当の意味で理解出来るのか。
若井には、その答えは分からなかった。
それでも、行く。
元貴が、たとえ、どんなに冷たくても、
どんなに素っ気なくされても。
元貴が助けを求めているときに
側にいるのは、自分であって欲しかった。
タクシーが止まったのは、高層マンションの前だった。
オートロックの前で立ち止まり、
若井は、スマホを取り出す。
もう一度、「着いた」とだけ打って、
送信せずに、やめた。
代わりに、エントランスのインターホンを押す。
──沈黙。
押し直す。
数秒ののち、「はい」という声が返ってきた。
鍵の開く音がする。
それ以上、元貴からは、何も言われなかった。
それでも、開けてくれた。
若井はそれだけで、もう十分だった。
エレベーターの中で、胸の奥がじわじわと熱くなる。
その感情が不安なのか。若井には分からなかった。
元貴の部屋の前に着き、インターホンを再度押す。
…沈黙。
応答はない。
若井は静かにノブを握って、軽く引いた。
カチャ….
鍵は開いていた。
中を覗くと、
部屋へ続く廊下は、真っ暗だった。
靴を脱ぎ、玄関をそっと閉める。
若井は無言のままリビングへ足を進めた。
リビングの扉をそっと開けると、
元貴はそこにいた。
部屋は電気が付けられていない。
しかし、カーテンも閉められておらず、
部屋は月明かりに照らされ、薄暗かった。
テレビは付いているが、音は出ていない。
映像だけが部屋の壁を照らしている。
若井は、ひとつ息を飲んだ。
声を掛けてもいいのか。
「……」
そこに元貴は、存在しているのに、
まるで誰もいないような気配だった。
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コメント
6件
大森さんのために、自分が何をしてあげられるかわからなくても、ただそばに居たい、どんなに冷たくされても大森さんの側に寄り添いたいと思う若井さんの真っ直ぐな想いが本当に……届いてたら良いなぁ…… 存在しているのに、誰も居ないように感じるほど今にも消えてしまいそうな儚い大森さんが、もう本当に絵画だなぁと……消えてしまわないよう、若井さんのあたたかさで包んであげて……
どことなく不穏な気配を感じる…。大森さんが何を思っているのか、すっっごく気になります。更新お待ちしております…!!
どんな大森さんでもそばに居たいわかいさんがかわい、、、 毎回神作すぎてびびります!