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🟦🏺です。貴方と共にいる未来が見たかった。
※死ネタです。地雷の方はご注意ください。
4月、桜の咲く別れと出会いの季節。
ロスサントスにも桜があって、この頃は道のずーっと向こうまで、淡い桃色がかすんで見える。
下に影を落とす高架橋を抜けると、雲の隙間から青が覗いた。
最近はこんな穏やかな小春日和でも暑くて敵わない。風が吹くのを少し心待ちにしながら桜並木の下を歩く。
木陰の下のベンチに腰を下ろす。目の前に広がる川を眺めていると、ひら、と頭になにかが乗った。
見上げれば、頭上には立派な桜の枝がある。
外にいると、どうしても恋人を思い出してしまい辛くなる。
いつまでも受け入れきれない自分に苦笑しつつ、今日は家に帰ることにした。
「ただいまー」
返事はない。当たり前だ。いつも二人で散歩に出ていたのだから。
玄関に並べられた靴は二つ。コート掛けに書けられた上着は二つ。机に置かれたマグカップは二つ。
前までは気にしていた食事も今は興味がない。これじゃ昔に逆戻りしたみたいだ。
咀嚼もそこそこにコンビニ弁当を食べ終え、さっさと寝てしまうことにした。
目の前に血溜まりが広がっている。
目の前の男が銃を持った男がつぼ浦のことを撃ち殺している。
反射的に銃を構えて男を撃ち殺す。つぼ浦に群がる仲間をかき分けて手を握る。
手が冷たい。あの銃はロスサントス外のものだ。それで心臓を貫かれていた。
「…つぼ浦、つぼ浦!」
呼びかけるとつぼ浦の目が薄っすらと開いた。
「っくそ血が…救急隊の人もう少しで来るから!」
「っ、ぁぉせん」
「ッなぁに」
「……ぃままで、ありがと…」
「、やめてつぼ浦、ほんとにッ…」
息を忘れてつぼ浦の手に縋り付く。瞬きすらできずつぼ浦の顔を凝視した。
「ぉれな、しぁわせでしたよ。…あぉせんといっしょ、ぃれて」
「喋んないで、…死んじゃ、うよ」
つぼ浦がゆらゆらと歪んでぼやけて見えなくなる。ホントは泣きたいのはつぼ浦だろうに、つぼ浦は満足げに笑顔を浮かべている。
どんどん悪くなる顔色と下がる体温を温めるよう抱きしめると、耳元に来たつぼ浦の口から声が漏れた。
「……………またな、ぁおせ…」
「…つぼーら?、、つぼ浦!?」
…俺が最後に見たのは、つぼ浦の笑顔だった。
「ッは!…はっ、はっ……」
まただ。また、あの時の夢を見た。
つぼ浦が死んでしまってから2ヶ月がたった。
もしかしたら悪い夢かもしれない、なんて起きて寝てを無意味に繰り返して7回目に俺はようやく理解した。もうつぼ浦は戻ってこない。
こうやって人は死ぬんだと思った。残された者の両手にありあまるほどの「その人」を残したまま、その人はもう二度とひっくり返されることのない砂時計になる。やがて記憶はどんどんこぼれていく。両手に何もなくなっても、もう、そのままだ。
起こした身体はだるく、窓から差し込む朝日が憎たらしい。
いつもならつぼ浦が起こしに来てくれる。朝食を作ってくれる。でもあの明るいよく通る声も、狂犬みたいな笑顔も、俺だけに見せてくれた普段の雰囲気にそぐわないふんわりした笑顔ももういない。
彼の死んだ日から俺の心は別世界に移動してしまったようで、どうしたって戻ってこない。
彼のいない世界は色でもなくしたようにくすんで見えた。
「…ッぅぐ……うぁっ…つぼーら、つぼーらっ…ごめ、ごめんね…」
不甲斐なくてごめん。助けられなくてごめん。代わりになれなくてごめん。
もう本人には届かない謝罪を口にしながら、ベットの上でうずくまった。
久しぶりにヘリに乗った。
相変わらずロスサントスの景色は綺麗だ。そこに人々がいて、皆別々に生活を営んでいる。
桜もまだ咲いていて、その花びらを散らせていた。
目的地まで後少しだ。事故らないように気をつけながら操縦桿を握りしめた。
「…着いた」
俺の目の前には小さな墓石がある。
桜の木の下にあるそれは、少し花びらが積もっていた。自分が来るより前に誰かが置いたお供えも置いてあって、つぼ浦という人物は愛されていたのだと実感した。
桜の樹の下には死体が埋まっている、なんて文章があったな、と思い出しつつ優しく手で墓石の花びらを払い、お供えのお花を置いて手を合わせた。
「…つぼ浦、久しぶりだね。来るの遅くなってごめん」
「最近は全然仕事行けてないんだ。迷惑かけて申し訳ないなぁ…」
「このお花はね、ガーベラっていうんだよ。黄色だしつぼ浦の雰囲気に合ってるかなぁって…」
花瓶に挿された九本のガーベラが風に揺れる。
「……つぼ浦が死んじゃうなんて全然考えてなかったから、あんまり思い出とか作れってなくてごめんね」
「…代わりになれなくてごめん」
桜の花を命に例えたら、つぼ浦の命は神様の気まぐれで強風に吹かれて散られてしまったのだろうか。雨に打たれて落ちてしまったのだろうか。
目の前の視界がゆがむ。あぁ、自分の心もずいぶんと弱くなったな、なんて苦笑してみると、急に強い風が吹いた。
強風に目をつぶると、ふと頭に手が置かれた気がして顔を上げる。
「…アオセンは泣き虫だな」
…今目の前で起きていることが信じられなかった。
桜吹雪を纏うようにして、つぼ浦が目の前に立っている。
目をこするが、間違いなく目の前につぼ浦がいる。あの時たしかにいなくなってしまったのに。
「…ぁ、つぼー、ら?」
「おう!そうだぜ!」
つぼ浦はにかっ、と誇らしげに笑う。その太陽のような笑みに、心の結界が崩れた気がした。
「……ぅあ゙、、ぅ゙わあ゙あ゙ぁぁぁぁッ!!!」
つぼ浦に飛びついてボロボロと情けなく泣く。幻覚ならきっと触ることなんてできないはずなのに、その体は確かに存在していて、太陽のような温もりを感じた。
涙が枯れるまで、俺はつぼ浦に抱きついていた。
俺がようやく泣き止むと、つぼ浦は持ってるハンカチで俺の顔を拭いてくれた。
「なん、で」
「なんだ?」
「なんでいる、の?つぼーらは、…」
「あー、それがな」
困ったような顔をしてつぼ浦は目を逸らす。
「わかんねぇ」
「え?」
「アオセンが泣いてるな、なんて考えたら気がついたらここにいたからな」
「…なにそれ」
俺のこと大好きじゃん。
つぼ浦は少し困り眉になると、俺の頭にまた手を置いた。
「まぁ、だからな。俺は多分またいなくなっちまう」
「…そっか」
そんな気はしていた。
これがこの街特有の歪みなら、神様の気まぐれなら。間違いなくつぼ浦は現世にとどまれない。神様の気まぐれだなんていつまで続くかわからない。
「…アオセン」
「なぁに」
「…俺のこと好きでした?」
「勿論」
これまでもこれからも、つぼ浦以外の人を好きになることはないんだろう。つぼ浦への告白が最期のプロポーズだ。
「そうっすか。…じゃあ大丈夫だな」
「なにが?」
「こっちの話っす」
つぶやいたつぼ浦が何かに気がついた顔をした。あぁ、そろそろなのか。
「じゃあ、アオセン」
「まって」
「?なんす…」
つぼ浦の顔を両手で掴み、そっと唇にキスを落とした。
一気に紅潮する顔を見てくすりと笑う。やっぱ変わらないな。
「…アオセン」
「なぁに」
「大好きです。愛してます」
「…俺も」
ふわりと風の吹く気配がした。
「じゃあアオセン。またな!!」
「…またね、つぼ浦!!」
ごうっと風が吹いて、桜吹雪が吹き付ける。淡い桃色で視界が覆われた。
周りが見える頃には、もうそこにはつぼ浦はいなかった。
「…あー」
あれは幻想か幻か。立ち上がろうとすると、手に何かがあたった。
「ん?……!」
いつも見慣れていたサングラス。それが、桜の花びらと共に、丁寧に畳まれておいてあった。
「…ふふふ、あはははっ!」
ああ、やっぱり夢じゃなかったんだ。
桜がまだ散らないことを願いながら、俺はサングラスを持ち上げた。
いつもの制服に身を包み、ヘルメットを付けて、刀を背負って。
数ヶ月前の自分がそこにはいた。
少しずつだが前進を続けて、ついに今日警察に復帰する。
ふと棚の上の写真立てを見る。そこには笑顔のつぼ浦の写真と手紙が置いてある。
つぼ浦が見守ってくれているなら、きっとつぼ浦は手紙を読んでくれる。お返事はもらえなくても、ただただ文面にしたかっただけだ。
玄関の扉を開ける。
熱くなってきた日差しが身を刺す。春の香りは消えて、夏がもうすぐそこまで来ている。もう春仕舞いだ。
「見ててね、つぼ浦」
「見てるぜ、アオセン」
振り返ってもそこには何もいない。でもきっとそこに彼はいる。
今日さえ明日過去に変わる。だから前を向いて進めるよう―――
「青井らだお、出勤しまーす」
つぼ浦へ
元気にしていますか?俺はまだ本調子ではないけど元気です。
もう桜も葉桜になりますが、いまだに桜を見るとつぼ浦と会えた時を思い出します。
まだまだ受け入れられないこともあるし、まだ家に帰ったらつぼ浦がいるんじゃないか、なんて期待したりもします。
でもつぼ浦はきっと過去をうだうだ引きずるのは嫌がるだろうし、自分の事なんて忘れてさっさと元の日常に戻れ、なんて考えてるんでしょう。
俺も日常に戻れるよう、仕事にも行けるようになりました。
もうつぼ浦とすごしていたあの日常には戻れないけど、つぼ浦のいない日常にもなれていこうと思います。
つぼ浦のことを忘れないように俺も生きるから、つぼ浦も俺のことを近くで見守っててください。
貴方のことが大好きな俺より。 青井らだお
コメント
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な…泣かせにきてますね…?! 気持ちの整理をした上でもう一度ちゃんとしたお別れができて、今度はtbだけでなくaoも笑顔で笑えるようになっていて…。 ああよかった、今回も美しいハッピーエンドだ、って思った、、のですが。前編なんですよね??後編で何が起きるのか、ハッピーすぎて怖いです…。
甘夏剤さん、読み終えました…切ないけど、すごく綺麗な話でした。 桜の下で交わした「またね」、あのサングラスの置き土産、ラストの「見てるぜ」がもう、心に刺さって離れないです。つぼ浦が生きている間も、亡くなってからも、ずっとアオセンを想ってたんだなって伝わってきて…泣きました。 重いテーマなのに、読後は不思議と温かい気持ちになります。続き、とても気になります…!