小川Side
‥‥‥携帯の着信でふと目が覚める‥。
リビングに置いていたのを思いだし起き上がる。ふと隣りを見ると‥藍が眠っていた。
すやすやと眠る藍は‥猫みたいに丸くなっていて‥
大抵こうやって寝ている事が多いと気付く‥まるで誰かが隣でいつも寝ているのではと思わせるような寝姿‥
そんな事を思っていたら‥一度止んだ着信が再び鳴り響く。
藍が起きてしまうな‥
慌てて携帯を探し、画面を見ると‥
智さんからだった‥
「朝からごめん‥いま、大丈夫?」
「大丈夫っすよ、どうしました?」
「‥‥いま、藍といるよね‥‥」
確信を持った言い方に思わず笑みがこぼれる‥
「くすっ‥智さんって何でも知ってるよね。どこかで見てんじゃないのって言うぐらい‥
うん、藍といるよ‥
いま、寝てるから」
「小川なら‥一緒にいるかなって思った‥藍は‥何か言ってなかった?」
「?‥いや‥なんにも‥」
そう答えつつも引っかかる物言いが‥‥何故か気になる。
「智さん‥もしかして‥何か知ってる?」
胸がドクン とする。
そもそも、智さんは何故、藍と祐希さんがあのホテルで会っているのを知っていたのか‥
たまたまだったのか‥
偶然あのホテルに行き二人を見たのか‥
いや‥そんな偶然あるんだろうか‥
「‥智‥ごめん‥」
「えっ?なんで謝んの?」
「‥実は‥あのホテルに藍と祐希を呼んだの‥俺なんだ‥」
「えっ‥‥」
「藍と祐希を鉢合わせて‥二人を引き合わせたら‥また2人が元通りにならないかなって思って‥だから‥藍にお酒飲ませて薬で眠らせて‥祐希を呼んで‥」
‥二人を会わせたのは俺なんだ‥と震える声が聞こえる‥。
「ちょっ!待って!嘘でしょ?だって、藍は何も言わなかったし‥」
「藍に言ったんだ‥小川に俺と会うの黙ってて欲しいって‥。だから言わなかったと思う‥ごめん」
‥思考がついていけない。
藍と祐希さんを会わせたかった‥?
だから‥二人はホテルで‥
いや‥それもだが‥薬で眠らせたと確かに智さんは言った‥
確かに‥
「‥マジで何してくれるんすか?智さん‥」
怒りで声が震える。
過去とはいえ、大好きだった智さんにも‥怒りが湧き上がる‥。
「ごめ‥ん‥謝って許されるわけな‥い。でも‥どうしても‥お前に‥戻ってきて欲しかった‥」
携帯越しに智さんのすすり泣く声が聞こえる‥。
「あん‥なに一緒に‥いた‥のに、何で‥藍を好きに‥なったのか‥俺は‥なんで‥捨てられたのか‥藍を‥選んだなんて認めたくなかった‥」
最後の方は‥嗚咽で途切れ途切れだ‥。
「最初から言えば‥良かった‥別れたく‥ないって‥藍の‥ところに‥いかないでって‥」
何故言えなかったのかな‥
そう言いながら‥智さんは声を上げて泣いていた‥
‥俺は何も言えず‥
ただ‥ただ‥その泣き声を聞いていた‥。
「‥ごめん、迷惑‥かけた‥」
落ち着いたのか、智さんがポツリと呟く‥。
「いいよ‥もう‥藍が俺のところに来てくれたから‥これからはずっと一緒にいるし‥」
「‥それでいいの?」
「‥え?」
「藍はきっと‥祐希が好きだよ‥見てわかるよ‥小川じゃない‥愛しているのは‥たった一人‥」
「うるさい!!」
‥思わず声を荒げてしまう。
初めてかもしれない‥智さんにそんな言葉を投げかけるのは‥
「なんで智さんにわかんの?藍は俺が好きだって言ってくれた!ずっと一緒にいるって‥俺を選んだんだ!それでいいんだよ!」
そうだ‥藍は‥言ってくれた‥
だから‥これからも一緒にいるんだ‥
俺達は‥
それでも智さんは続ける‥
「お前といる時の藍は幸せなの?泣いていない?‥‥無理矢理、自分のものにしても‥心は奪えないんだよ‥」
「‥そんな話なら切るよ‥」
「智‥お前は藍の気持ち‥わかってるんだろ‥認めたくないだけで‥身体で繋がっても‥藍の気持ちはたった一人にしか向けられない‥
お前はわかってるはずだよ‥
ホテルで会った藍は‥泣きそうな顔して笑ってた気がする。
ねぇ、智‥
思い出してみて‥
お前が好きだった藍を‥
お前は‥
なんで藍を好きになったの‥?」
‥智さんからの電話の後‥暫く動けずにいた‥
なんで藍を好きになったのかって‥
そんなの決まってる‥。
何をいまさら‥
そう思いつつ立ち上がり寝室へと戻る時、無造作に置いていたリュックに目が止まる‥。
‥何故忘れていたのか‥。
リュックのポケットをまさぐる‥
すると‥
以前、泣いてる藍から取り上げた指輪が零れ落ちた。
指輪‥
‥これは過去の記憶‥‥
“小川さん、見てや!めっちゃ光ってると思わん?“
“何それ?拾ってきたの?お前?笑“
“アホ!これ、祐希さんがくれたんよ、ペアリングだって‥俺に‥あかん、めっちゃ嬉しい“
いつだったか‥祐希さんから貰ったペアリングを嬉しそうに指にはめて語っていた藍‥‥よほど嬉しいのか‥自分の指を見ながら‥バカみたいにニヤけて笑っていた‥
それを見て俺も笑う‥
祐希、祐希、うるせーな。
“ええやん、めっちゃ好きなんやから“
ガキみたいに舌を出して笑っていた藍‥。
そうだ‥
祐希さんと付き合っていた頃の藍は‥いつも幸せそうだった‥
アホみたいに笑って、
バカみたいにのろけて、
くるくる表情が変わって‥
面白えなぁといつも思っていた‥。
何があってもいつも祐希さんが好きって
真っ直ぐに言う‥
お前が俺は大好きだった‥。
寝室に戻ると藍は‥すやすやと眠っていた。
涙で張り付いている前髪をそっと触る‥。
俺といても‥泣かせてばかりだった‥
そうだ‥
俺が泣かせていたんだ‥
藍の笑顔を見たかったのに、
誰よりも笑って欲しかったのに‥
俺は‥‥‥‥‥‥。
うつむくと雫が零れ落ちる。
どうして気付かなかったんだろう‥
俺はバカだ‥‥‥
ガチャ‥金属音が鳴り‥ふと目線をあげると、いつの間にか‥藍の瞳は開いていて‥俺を見つめてる‥
手錠のついた手を懸命に俺に伸ばすから‥
「ごめん‥忘れてた、すぐ外すから‥」
慌てて藍の手錠に手をかける‥
しかし‥
その手を藍は握りしめ、
俺を見て‥
「小川さん?‥泣いてるん?」
不思議そうに首を傾げ、手錠のついたままの手を上げ‥俺の涙を拭う‥
「泣かんでええよ‥ずっと一緒にいるから‥寂しくないよ‥‥」
俺がおるよ‥そう言って藍は笑った‥
まるで子供にするみたいに頭を撫でながら‥
「‥子供じゃねぇんだぞ‥」
思わず毒づいてしまう‥。
悪態をつくのに‥
それでも藍は微笑んでいた。
ああ‥
ずっとここにいたい‥
お前といたい‥
このまま時間が止まればいいのに‥
そんなありえないことを思ってしまう。
俺は‥
本気でお前が好きだった‥
好きだったんだよ‥
藍‥。
数日後‥
PM20時。
いつ来るかも分からない彼を待っている‥
約束をしているわけではない‥
もしかしたら、帰ってこない可能性もある。
それでも‥
構わない気がした‥。
「小川?何してるの?ここで‥」
‥2時間後‥
彼が帰宅する。
驚きを隠せない顔に‥それはそうかと納得する。
何の約束もなく、自宅前で待っているのだから‥
「久しぶりですね‥
ちょっといいですか?」
そう言いながら‥
祐希さんを見つめた‥
揺らぐ決意を隠しながら‥‥‥‥‥‥
コメント
7件
みんなの関係性がどうなっていくのか…ハラハラして読ませてもらっています 楽しみです!
智くんも気付いてはいるんですよね、藍くんがホンマに好きなのは祐希さんだけって… 頭では解ってるけどそれだけ本気で藍くんの事が好きやから側に居たい気持ちも痛いくらい解るんですよー😭皆幸せになって!って気持ちでいっぱいです!智くんはどうするのかな?続きが楽しみです!