七
キックオフ後、ルアレの選手の間でパスが何本か回った。一度だけボールに触れたオルフィノは、ゆったりした足取りでヴァルサ陣地へと上がってきた。
「アリウム!」暁は声を張り上げた。するとアリウムは、すうっとオルフィノに近寄った。
試合前日のミーティングで、ルアレのキーマンのオルフィノを徹底マークすると決定し、身体能力に優れるアリウムが抜擢されていた。
ルアレ5番がボールを受け、前を向いた。刹那、オルフィノが真左に加速。だがアリウムの反応も早い。遅れずに従いて行き、パスが出てもすぐさまカットできる位置を取る。
オルフィノへは諦め、5番は右前の6番に転がした。6番、ぴたりと止めて前を向いた。
タッチライン際をモンドラゴンが駆け上がる。すぐに6番を追い越し、パスを足元に収めた。しかし暁の指示で8番が当たり、少し後ろでは3番がフォローできる位置にいる。
(良い感じだ、みんな集中してる。モンドラゴンとオルフィノは精神的支柱だ。二人をしっかり抑えれば、勝機は見えてくる)
神白が静かに思案していると、モンドラゴンは小さく振り被った。すぐに右足を振り抜き、アーリー・クロスを放り込んでくる。
ゴール前にボールが飛んだ。ルアレ9番が走り込んでくる。
「遼河!」神白は叫んだ。キーパーと暁の間の際どいところに飛ぶ。だが暁は跳躍。頭に当てて弾いた。
3番が疾走。ゴールラインぎりぎりでボールを止めた。クリアするが詰めてきた9番に辺り、ボールは軌道を変えた。タッチラインを割って、ヴァルサのスローインとなる。
(さすがはモンドラゴン。クロスの精度は恐ろしく高い。けど今日は遼河も好調だし、無失点だって夢じゃあない!)
神白は一人、気持ちを高めていた。伝統の一戦に望んで臆する気持ちはなく、精神状態は最高だった。
八
以降、ヴァルサは高い集中力を持続し、ルアレの攻撃を跳ね返し続けた。
五分が経過した。ヴァルサ陣地中ほどで、敵5番からオルフィノにパスが出た。しかし、少し狙いがずれている。
瞬時にアリウムが地を蹴った。オルフィノの前に出てボールを奪う。
「カウンターだ!」神白の指示と同時、アリウムは前方のレオンに速いパスを出した。レオン、ちらりと中を一瞥して、ダイレクトで蹴り込む。
低弾道のボールが飛ぶ。応じたのは天馬だ。全力で駆けて行き、落下点に到達する。
後ろからの球を胸で足元に収め、天馬は前を見た。モンドラゴンがいた。半身で構えながら、天馬のへその辺りを注視している。
(ビッグマウスは伊達じゃあないっすね。隙がなかなか見つからないっす。でもないならないで全然構わないっす! なぜならオレが作り出してやるだけだから!)
固く決意し、天馬はふっと力を抜いた。次の瞬間、タッチ、内跨ぎ、タッチ、外跨ぎ。両足を高速で動かし、フェイントを掛ける。
モンドラゴンがぴくりとした。(チャンス!)即断した天馬は、左でドリブル。敵の右を抜きにかかる。
しかしモンドラゴンの反応は早い。天馬に遅れずに並走し、やがて身体を入れてボールを天馬から遮断する。
「くっ! この!」天馬、左右から奪取を試みるが、体格差は埋めがたくボールに到達できない。
ころころと転がったボールは、やがてラインを割った。ルアレのスローインである。
(オレとモンドラゴンは、スピードがほぼ互角。ただフィジカルはぼろ負けっすから、そこの勝負に持ち込んだら勝ち目はないっすね。さあて、どうしたもんか)
バックステップで引きながら、天馬は頭をフル回転させていた。年齢差を言い訳にするつもりはない。現在のヴァルサのトップには、十七歳で初得点を決めた超俊英もいるからだ。
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