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第9章:偽りの英雄
セレナを残し、次なる封印の地へと向かうゲズ。
向かう先は、“月の裏側”にある重力の歪んだ神殿。
そこは、空間がねじれ、時間すら曖昧になる異界のような場所だった。
「ここが……次の封印の地……?」
そのときだった。
「久しぶりだな、ゲズ」
その声を、ゲズは――忘れるはずがなかった。
振り向くと、そこには“死んだはずのリオン”が立っていた。
「……リオン……?」
変わらぬ姿、変わらぬ笑顔。
だが――どこか、冷たい。
「よくここまで来たな。でも、もういい。
お前には、この先の力は扱えない。俺が代わりにやる」
「どういう……意味だよ……?」
「お前は暴走し、セレナを傷つけた。
力を持つべきじゃない。
何より――お前が俺を殺したんだ。忘れたか?」
ゲズの鼓動が止まりそうになる。
「俺が……?」
「そうだ。あのとき、お前が“暴走”しなければ、俺は死ななかった。
セレナももう、お前を必要としてない。
お前は――ただの“器”だったんだよ、ゲズ」
その瞬間、神殿の壁に刻まれた“記憶の映像”が浮かぶ。
そこには、暴走するゲズの雷が、瀕死のリオンに向かって放たれる姿――
そして、最後の一撃がリオンの命を奪うように見える光景。
「嘘だ……嘘だろ……俺が、あんたを……!?」
心が崩れる音がした。
力が消えた。立ち上がる意志も、消えた。
「お前には、何も残ってない」
“リオン”はそう言い放ち、雷の剣を構えた。
⸻
そのとき。
ゲズの胸に――セレナの声が微かに届いた。
「……あなたは、私の“希望”。
たとえ誰に否定されても、私は信じてる……」
ゲズは気づいた。
“リオン”は偽物だ。
あの声には、あんたの“優しさ”がなかった。
「……ふざけんなよ、偽者が!!」
雷が再び走る。
だがそれは怒りではなく、心から湧き出る“守りたい”という想いの雷だった。
「リオンは……あんたなんかじゃない!!」
全力の一撃が、偽りの英雄を貫いた。
“リオン”の姿は、砕けた鏡のように割れ――そこから現れたのは、
ルシフェルの尖兵・ネメシス。
人の姿を模倣する、精神侵蝕の使徒だった。
「面白い。
これでも壊れないか……
お前という器、やはり特別だな。
……では次は、“本物”を壊してやろう」
ネメシスは姿を消す。
そして、ゲズは膝をついた。
心はまだ震えていた。
だが、眼はもう揺れていなかった。
「……俺は、間違っても進む。
あんたの死を、意味のあるものにするために。
そして、セレナを……必ず守る」