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かすかな足音が背後から駆け寄ってくるのを、スンホはもう振り払えなかった。
「スンホ!」
震えた声。
振り向くと、ずっと探していたかのように必死な目で、ナオが立っていた。
嘘をついていたはずのナオ。
裏切ったはずのナオ。
「やめろって! お前、そんなとこで何してんだよ!」
ナオはスンホの腕をつかんだ。
「放せ……っ」
しがみついてくる体温が冷え切った心を少しずつ溶かしていく。
「俺は……もう、終わりにしたいんだよ……」
ナオの手がスンホの頬を叩いた。
「ふざけんなよ! まだ全部終わっちゃいねえだろ!」
乱暴な言葉が、スンホの胸に突き刺さった。
「一緒に逃げよう。お前だけ死んだら、俺どうすんだよ!」
それは嘘じゃなかった。
騙されていたと思ったナオの目に、涙がにじんでいた。
スンホは崩れるように座り込んだ。
ナオの肩にすがりつき、声を殺して泣いた。
誰も信じないと決めていたのに、誰かの手がまだ温かいと知ってしまった。
その夜、スンホは高い場所から降りた。
借金は消えない。
闇はまだ残っている。
それでも、誰かと生きるために、もう一度だけ踏み出すと決めた。
朝焼けが街を照らし始めていた。
スンホは初めて、少しだけ息がしやすい気がした。
【happy end】