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「リアム様はあなたに何かされましたか」

「…出会った時と同じ反応をされた」

「同じ反応とは?」

「僕を気に入ったから妻にするって」

「ふっ…そうですか。なんど出会いをやり直しても、リアム様はあなたを好きになるということですね」

「嬉しくない…。僕は最初に出会った時のリアムがいい…」

「フィル様…」

ゼノが僕に近づき手を伸ばした。次の瞬間、僕の腕を強く掴む。

「いたっ!なにするのっ」

「お静かに。全ての部下を追い払ったつもりでしたが、隠れて様子を見ている者がいます」

「…しつこく言ってた人?」

「はい。彼はこの戦においては俺の下についてますが、俺と変わらぬ身分の者です」

「ゼノを心配して見張ってるんじゃない?」

「暴れるな」と大きな声で言いながら、ゼノが僕の腕を引く。そして僕の耳に顔を寄せて小声で話し続ける。

「いえ、むしろ俺を不審に思っているのでしょう。彼は常にリアム様の側近の地位を狙っています。隙あらば俺を落として自分がその地位につきたいのです」

「それならゼノは僕を逃がせないね。どうすればいい?」

時おり腕を引いて逃げる素振りを見せながら、僕も小声で話し続ける。

「大変申しわけないのですが、あなたを一度拘束させていただきます。しかし他の者には一切触れさせません。俺が傍にいて守ります。よろしいですか?」

「わかった。ゼノの言う通りにする。あとお願いがある」

「なんでしょう?」

「未だバイロン国の王城に残っている騎士達を無事に帰らせてほしい」

「ああ、確かに残っていましたね。この戦の戦況が伝わる前に城を出させましょう。戦況が伝われば、勝敗に関係なく彼らは利用される恐れがありますから」

「うん、ありがとう」

「しかし本当に彼らを帰してよろしいので?バイロン国内の諜報の役目を担っていたのでは?」

「…ゼノは優秀だね。そうだよ。でもやはり彼らの命が一番大切だから」

僕はゼノにわかるように微かに微笑んだ。

ゼノが頷いて僕の両腕を縄で縛る。そして「では行きましょうか」と歩き出す。

ゼノに引かれるように進み、ゼノの馬に乗る。

後ろに座ったゼノが囁く。

「緩く縛ってますが、動くと縄がこすれて痛みますので気をつけてください。あなたの馬はどうしますか?」

「僕がいないことがわかれば、勝手に陣へ戻るよ」

「なるほど、賢い馬ですね」

ゆっくりと馬の足を進めながら、ゼノがロロを褒めてくれる。

草を食むロロを目を細めて見ながら僕は嬉しくなる。

心の中で「ロロが無事に戻るように」と願って、僕は前を向く。

「ところでこのままバイロン国に行くの?」

「そうです。バイロン国にはこっそり入ります。入るとすぐに、あなたにはしてもらわなければならないことがある」

「なに?」

「髪を染めてもらいます。その髪は目立ちすぎる。リアム様に見つかると面倒なことになりそうですしね」

「わかった」

僕が頷いたのを合図に、馬が走り出した。

僕はもう一つ大事なことに気づいて振り返る。

「ゼノ」

「喋ると舌を噛みますよ」

「大丈夫。あのね、バイロン国に行く前にトラビスと話ができないかな?僕がいなくなったことがわかれば国境を越えてバイロン国を攻めかねないから」

「ああ、あの屈強そうな方。確かイヴァル帝国の将軍でしたか」

「そう。今は彼が僕の側近みたいなものだから、すごくピリピリしてるんだ」

「王城でお会いした時に、あなたの隣にいた側近は来ていないのですか?」

「彼は…」

そうだった。ラズールを治すための薬も手に入れたい。

僕は身体ごと振り返ると、ゼノの服を掴んだ。

「あっ!危ないですよっ」

「ゼノ!雪斑症の薬って手に入れることができる?」

「雪斑症?できますが…。あれはバイロン国内でしか発生してないはずですよ?」

「採掘場の調査に行った帰りに、第一王子に襲われたんだ。あの時、第一王子が率いる部隊が来ただろう?」

「来ましたね。そういえば、その採掘場にあなたが現れたことも気になっていたのです。フィル様にはたくさん聞かなければならないことがあります」

「ちゃんと話すよ。僕もリアムのことを聞きたい」

まっすぐにゼノの目を見つめると、ゼノが「はい」と頷いた。

「ラズールはね、第一王子の部隊から僕を庇って矢で射抜かれてしまった。その矢に毒と雪班症の菌が塗られていたんだ」

「なるほど、彼は今は動けないのか。来たくても来れなかったわけですね。それにクルト王子がやりそうなことです」

ゼノが手綱を引いて馬の足をゆるめる。そして辺りを見回すと、目についた小屋に近づいた。

「あの小屋…誰も使ってないみたいですね。先ほど見張っていた俺の部下はもういません。ここに将軍を呼べますか」

「僕は鳥を扱えない」

「幸い、あなたの賢い愛馬が付いてきてますよ」

「えっ」

驚いて首を巡らせた僕の目に、遠くから駆けてくるロロの姿が映った。

「ロロ!追いかけてきたの?」

僕は叫んで馬から飛び下りた。

ロロが勢いよく走ってきて目の前に止まる。そして僕の顔に鼻先を擦りつけた。

「皆の所へ戻らなきゃダメじゃないか。…でも、来てくれてありがとう」

ふんっと鼻を鳴らして、更に顔を擦りつけてくる。

僕はとても愛しくなって、何度も首を撫でた。

「ロロ、お願いがある。ここにトラビスを連れてきてくれる?」

「フィル様、これをここに括りつけてください」

「これは?」

「あなたを捕らえていると書きました。これを読めばトラビス…とやらは、怒ってすぐさま駆けつけて来るのでは?」

「すごく怒って来ると思う」

「それは恐ろしいですね」と笑いながら、ゼノがロロの鞍に細長い紙を括りつけた。

「ロロ、頼んだよ。怪我しないでね」

僕はロロの首を抱きしめると、ロロの身体の周囲に結界を張る。

ロロはわかったという風に首を縦に振り、戦場の方角へと走り出した。

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