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鈴蘭学院の名前を、
まどかは家の外で聞くようになった。
それは、ある日の昼休みだった。
「ねえ、鈴蘭学院って知ってる?」
隣の席の子が、声をひそめて言った。
まどかは、箸を止める。
「……名前だけ」
本当は知っている。
姉が通っている。
でも、それは言わなかった。
「やっぱ有名だよね。
お嬢様学校ってやつ」
「お金持ちしか入れないんでしょ?」
「うちの親が言ってた。
成績だけじゃダメなんだって」
言葉が、机の上に落ちていく。
まどかは、笑って相槌を打ちながら、
ひとつひとつを覚えていった。
「あとさ、ちょっと怖い噂もあるらしいよ」
声が、さらに小さくなる。
「怖い噂?」
「入ったら、
途中で辞められないんだって」
「え、なにそれ」
「辞めた人、いないらしいよ」
誰かが冗談っぽく笑った。
でも、誰も否定しなかった。
まどかは、
お弁当のふたをそっと閉めた。
放課後、帰り道。
商店街の音が、いつもより遠く感じた。
鈴蘭学院。
選ばれた人だけの場所。
辞められない学校。
噂は、事実じゃないかもしれない。
でも、噂が生まれる理由はある。
その夜、
まどかは姉に聞こうとして、やめた。
聞けば、
やさしく答えてくれるのは分かっている。
でも、
本当のことを知る覚悟が、
まだなかった。
布団に入って、
まどかは天井を見つめた。
鈴蘭学院は、
まだ自分の世界じゃない。
それなのに、
もう、胸の奥に
小さな鈴の音みたいな違和感が鳴っていた。