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ごきげんよう、シャーリィ=アーキハクトです。辺境伯からの使者が殺害されたので犯人を仕留めた私達母娘は、ベルに後始末と調査をお願いして宿屋へ戻ることにしました。少々面倒な事態になったのは間違いありませんが、別に構いません。敵なら殲滅するだけです。 今回は手短に終わらせるつもりですが、帝都に比べて援軍を呼びやすい場所であることが幸いでした。今回はまだ呼びませんが。
既に待機していた情報部員達と接触して事態を黄昏に知らせてベルを助けるように指示を出せたので、あとは結果を待つだけです。
「ガウェイン辺境伯はなんと?」
「今夜、指定されたレストランで会うことになりました。お母様の健在を知れば驚くでしょう」
「どうせなら腰を抜かすくらいには驚かせてやりたいものね」
「それはどうかと……」
とは言え、指定された場所は既に確認しましたしまだ時間もあります。ベル達の調査が終わるのを待ちながらのんびり過ごすのも悪くありません。え?護衛を手離して良いのかって?
……お母様が居ますからね。先程の動きからも現役と変わらないくらいの身のこなしでしたので心配は無用です。私自身もいつも通り勇者様の剣を持ち歩いていますし。
とは言え、指定された時間までまだ余裕はあります。折角なのでお母様とのんびり……。
「お嬢、待たせたな」
予想以上に早く戻ってきたベルの言葉で私のささやかな時間は終わりを迎えました。なんだか、嫌な予感がします。
「お帰りなさい、ベル。何か掴めましたか?」
「あー、何かを掴めたと言うか掴みすぎたと言うか。コイツを見てくれ」
ふむ、珍しく歯切れの悪いベルから書類を受けとり、お母様と一緒に目を通しました。
「これは……まさか、本気ですか?」
「あらまあ」
書状にはガウェイン辺境伯の使者を殺害するよう記されていて、報酬の金額から受け渡し場所まで詳細に記されていました。そして私達を驚かせたのは、最後にワイアット公爵家の印が押印されていました。
「印は本物みたいだけど、幾らなんでもあからさま過ぎるわね」
「だよな、だから困ってるんだよ。頼まれた奴等も木っ端みたいな奴等だしな」
確かに普通に考えれば、ワイアット公爵家を陥れようとする輩が仕掛けた何らかの策略でしょう。
ですが、これは好都合でもあります。
「お母様、この書状の真偽はこの際問題ではありませんよ。重要なのはワイアット公爵家がガウェイン辺境伯の家人を始末したこと、そしてそれを指示した書類が存在すること。この二点です」
「ああ、あの日和見が邪魔なのね?シャーリィ」
「お話が早くて幸いです」
「だがよ、どう考えても誰かの陰謀だ。そいつに乗っかるのは危険じゃねぇか?」
「もちろん背後関係を調べさせます。こんなにあからさまな策を仕掛けてくるんですから、そこまで危険はないと思いますが」
どちらにせよ、ワイアット公爵家は邪魔なので潰すために利用させて貰います。これを用意した相手が私達を嵌めようとしているならば、相応の報いを受けて貰うだけですから。
そして夜、指定されたレストランの貴賓室にてシャーリィ達はガウェイン辺境伯と会見。その際ヴィーラの生存を知った辺境伯はさして驚くことも無かった。
「貴女は殺しても死なんような御仁だからな。生きていても不思議ではない。むしろ死亡したと言う報を御息女の謀略だと考えていたくらいだ」
「なによ、つまらないわね」
心底つまらなそうにしていますね。相手が辺境伯相手でもお母様の態度は変わりません。いや、気心の知れた辺境伯だからかもしれませんが。
「詳しい話は後にするとして、お互いに共有すべき情報が山のようにありそうだ。先ずはこのバカ騒ぎの元凶、帝都で何があったか詳細を知りたい」
「私達の持つ情報にも限りがありますよ?」
「構わない。ワイアット公爵は何を思ったか領内に戒厳令を敷いている。領地の外側の情報が手に入り難くなっているのだ」
「それは初耳ですね」
まあ、南部閥が戒厳令を敷いたとしてもシェルドハーフェンにはほとんど影響はありません。常に出入りしている商人や船を通じて大量の情報が集まっています。
内戦の情報など周知の事実であり、これを機にボロ儲けしようと裏社会も活気を増していますからね。
表の世界の戦争ほど裏社会が活発化することはありません。混乱が起きれば商機もある。私達もボロ儲けをしているので、非難するつもりはありませんが。
私は自分が知る限りの情報をガウェイン辺境伯へ伝えました。もちろん、タダではありません。
「閣下、ワイアット公爵家が邪魔です」
「ふむ、邪魔かね?」
「はい。一連の事件の首謀者はマンダイン公爵家で間違いはありませんが、戦うためには背後を固めなければいけません。日和見主義のワイアット公爵家が南部閥を率いている現状は、決して好ましくはありません」
「それで、何を望む?」
「お兄様の為にも、辺境伯には立ち上がっていただきたいのです。内戦が始まった以上、お兄様も、殿下も事を動かす時が来たと判断なさる筈です」
既にカナリアお姉様率いる西部閥はお兄様を支持することを内々で決めていますし、後見人である辺境伯が立ち上がれば二大派閥を味方に引き込むことになります。
つまり、帝位争いはお兄様が圧倒的に有利となります。帝国の未来を考えた場合、お兄様が皇帝に即位されるのが最良の選択となるのは間違いはありませんからね。私も色々とやり易くなるし。
「この場ですぐに返答できるようなものでないな。なにより、大義名分がない。ワイアット公爵家は、派閥の長を交代させるほどの失策を犯してはいないのだからな」
「ならばこちらを。閣下の家臣が戻らない理由が記されています」
私は此処でワイアット公爵家の書状を手渡しましたが……おや。ため息を吐かれた。
「またこれか」
「また、とは?」
「信じられないかもしれないが、この書状は本物だ。陰謀が絡んでいるわけでも偽物でもない。正真正銘本物の依頼状だ」
「その根拠は?」
「差出人は、ワイアット公爵家長男のザルカ=ワイアット。私に対する嫌がらせだよ。しかも本人がこの事を公言して周囲に吹聴している始末だ」
「……は?」
あんまりにも衝撃的な言葉に私は硬直してしまいました。え?本当に?