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#ファンタジー
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#ファンタジー/SF
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明け方。
雨は止んでいた。
“NEON DUST”の二階。
今はレオン達の事務所になっているその部屋で、 古い換気扇が低く唸っていた。
机の上には、
空き缶。
分解されたドローン。
散乱した配線。
そして、
何台ものモニター。
青白い光の中、
リオだけが眠っていなかった。
画面には、
国家財政管理局長官――アルバート・グレイ。
半年前に失踪し、
一週間後、
何事もなかったように戻ってきた男。
朝になると、リオが全員をモニターの
見える位置に集める。
リオ
「これ見て。」
「まずは失踪前。」
記者
『軍事予算増額案についてどうお考えですか?』
アルバート
『……必要な投資ではあります。えー、我が国の周辺でも情勢が不安定な状態が続いています。しかしながら、国民生活を支える経済政策、社会保障。これらとのバランスも考えなければならない。』
映像が切り替わる。
リオ
「次が失踪後。」
記者
『軍事費の増加ついてどうお考えですか?』
アルバート
『国家防衛に必要な投資です。周辺諸国の情勢を見ても避けられないと考えています。しかし、当然ながら国民生活の安定にも十分注視して進めていく必要はあります。』
リオ
「声紋一致率98.7%。」
「顔認証システムもほぼ一致。」
「表情筋の使い方や話す時の癖まで同じ 。」
ジンク
「本人じゃねぇのか?」
リオ
「データ上は本人だね。」
壁にもたれていたレオンが、
煙草を指で回しながら低く言った。
レオン
「……違和感がある。」
ミラも静かに頷く。
ミラ
「ええ。」
リオ
「何が?」
レオン
「迷いがなくなってる。」
ミラ
「失踪前は、考えて言葉を選んでる。」
「失踪後は違う。」
「最初から答えが決まってる喋り方。」
静寂。
リオはもう一度映像を見る。
止める。
戻す。
繰り返す。
そして。
リオ
「……あ。」
ようやく気付く。
内容は大きく変わっていない。
だが、
失踪後のアルバートには、
迷いだけが消えていた。
工場の空気が少し冷える。
リオ
「言われてみればそうだけど…」
「考えが固まっただけのようにも見えるしなぁ」
「……これ。」
「GHOST CHIPと関係あると思う?」
誰も答えない。
数秒の沈黙の後ミラが言った。
ミラ
「失踪していた一週間を
手分けして調べましょう。」
⸻
一日目。
リオは政府と行政の記録を徹底的に洗った。
国の公式記録。
緊急車両出動記録。
交通記録。
通信履歴。
失踪時のアルバート周辺に関するデータ。
何もない。
失踪時の映像も、緊急対応記録も、
封鎖命令も存在しない。
警察が捜査していた記録は見つかったが、
形式として残してあるだけのような、
まるで中身のないものだ。
捜査する気がなかったか
あるいは後から偽装したか。
なんにしても削除や修正した痕すら
見つからなかった。
リオ
「……完璧すぎる」
キーボードを叩く。
カタカタ、と乾いた音。
だが結果は変わらない。
記録は消されたのか。
書き換えられたのか。
最初から存在しないのか。
判別すらできない。
結局、
一日目で掴めたものは何もなかった。
⸻
二日目。
リオは対象を民間へ移した。
メディア。
企業ビルの監視カメラ。
ホテル周辺の防犯記録。
しかし昨日と同じだった。
何もない。
半年前の出来事だ。
保存期限切れ。
上書き済み。
破損。
理由だけは大量に並ぶ。
データが残っていても昨日と同じく
何の変哲もない日常が残るだけだ。
椅子にもたれる。
冷え切ったコーヒーを飲む。
金属みたいな味がした。
⸻
三日目。
個人SNS。
匿名掲示板。
動画配信。
リオは膨大な一般の投稿を掘り始める。
食事写真。
旅行の記録。
雑談。
ペット動画。
無数のノイズ。
朝から晩まで画面を追い続けた。
目が焼ける。
だが、
収穫はゼロだった。
リオ
「……クソ」
画面の青白い光だけが、
部屋に残っていた。
⸻
四日目。
リオは調査範囲を絞る。
アルバートが最後に目撃されたホテル周辺。
失踪当日の夜。
この辺りは繁華街で夜でも
それなりに人がいる。
その時間帯の投稿だけを、
片っ端から洗っていく。
やはり何も出てこない。
息抜きに目についたブログを読んでみる。
リオ
「……なんだこれ」
スクロールの手が止まる。
旅行ブログ。
文章の繋がりが不自然だった。
まるで途中だけ切り貼りしたように、
話題が飛んでいる。
別の投稿も見返してみる。
よく見ると違和感のある投稿が
いくつか見つかった。
友人同士と思われるツーショット写真。
画像の比率が最近の端末ではあまり使われない比率になっている。
おそらく端が切り取られている。
さらに別のブログ。
食レポ記事。
ラーメンの感想が書かれているのに、
ラーメンの写真を掲載していない。
別の日のブログではしっかり料理を写真付きで紹介していた。
リオ
「……偶然じゃない」
失踪当日の最後の目撃場所付近。
何かが消えている。
個人投稿ですら、
何者かの干渉を受けている。
背筋を、冷たいものがゆっくり落ちていった。
だが、ようやく光が見えた。
完全には消し切れていない。
一度削除された後、
問題箇所を省いて再投稿した人間がいた。
膨大な一般投稿すべてまでは、
管理しきれなかったのだろう。
⸻
五日目。
リオは投稿者へ連絡を始めた。
返信はまばらだった。
『すみません。覚えていません。』
『機種変更したので残ってないです』
『何で今さら?ってか誰?』
『気持ち悪いんでやめてもらっていいですか』
『通報します』
無機質な通知音が、
部屋に繰り返し響く。
リオは目を擦る。
リオ
「……クソ」
「まぁ半年前の投稿にメッセージは
普通に気持ち悪いよなぁ…」
時間だけが過ぎていく。
やっと見えた光が、
指の間から零れ落ちていく。
換気扇の音だけが、
やけに大きい。
深夜。
最後の返信は食レポ系ブロガーだった。
『ご連絡ありがとうございます!
掲載してなかったラーメンの写真、残ってました!
美味しかったので是非食べに行ってみてください!』
軽い文章。
ただの一般人。
リオは添付ファイルを開く。
夜の屋台。
赤い提灯。
湯気。
ラーメン。
そして。
写真の奥。
道路脇に停車した黒い公用車。
中の様子は見えない。
そして車の外。
スーツ姿の男が立っている。
後ろ姿で顔は見えない。
息が浅くなる。
画像を拡大する。
画質は荒いが、車のナンバーは読み取れる。
当日アルバートが使用していたもので間違いない。
撮影日時。
失踪当日の 23時13分。
リオはしばらく動けなかった。
リオ
「……あった」
換気扇の音が、
遠くで唸っている。
誰かが消した。
政府記録も。
メディアも。
一般人の投稿も。
都市規模で、
一晩の出来事そのものを。
“なかったこと”にした。
5日目にしてリオはようやく
消しきれなかった手掛かりを手に入れた。