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テラーノベルの小説コンテスト 第4回テノコン 2025年1月10日〜3月31日まで
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雨は何もかもを濡らすように振り続いている。

大雨の下、京介は屋上のフェンスの奥を見つめ、ポツンと立ち尽くしてした。

僕はピチャピチャと小さな水溜まりを踏み歩いた。その音に気がついたのか、京介が振り返える。

京介の瞳は複雑な色をしていた。でも、その色には見覚えがあった。


「…なんで来たんだ」

京介は静かにそう言った。

「さっきは話ができなかったから」

僕は強気で京介を見つめた。

「…」

でも京介は何も言わず、僕から目を逸らした。

「京介、ごめん」

謝って済む事じゃないのは分かってる。だが、この事については全部僕が悪い。

「いい。どうせ誰かに何か言われたんだろ」

京介は僕の言葉に何とも思っていないように淡々とそう言った。

「それは…」

「だからいいって言ってるだろ」

いい、と言っているが、もういいと、謝罪を受け入れる気がないと言っているようだった。

京介はまた、僕から目を逸らす。やっぱり怒っているのだろうか。胸の奥がズキ、と痛んだ気がした。


冷たい雨に寒さを覚え、雨の音がうるさく聞こえた。



「…ゆきは、俺の気持ちなんて知らないだろ」

京介が沈黙を破った。

「俺はずっと嫌だった。ゆきが俺以外の奴と話すのも、笑顔を見せるのも、触れるのも…。……俺はゆきが他人と仲良く出来ないようにずっとゆきの傍にいた。でも、ゆきは変わった。自分で俺から離れるようになって、俺に嘘ばっかつくようになった。俺はそれが嫌で堪らなかった。分かりやすいんだよ、。言わないって事は言いたくないんだろ。ゆきは俺に言いたくない事、沢山あるんだろ」

「……」

京介は、ずっとそんな事を思っていたのだろうか。だったら僕はどれだけ京介に嫌な思いをさせてしまったんだろう。…言いたくない事、それ言ってしまえば、全部が崩れてしまう。僕が死ぬと言ったら、京介はどんな顔をするのだろうか。

でも、少しだけホッとしてしまった。京介は僕の病気については何も知らないようだったから。

「…誰にも言うつもりはない」

それは本当だ。

「……。」

京介はまた僕を見た。

「…やっぱり、ゆきは変わったよ」

そう言う京介はなんだか少し悲しそうに見えた。

僕は変わったのだろうか。

「…6月から、ずっと」

ドクン、と心臓が跳ね上がった。6月は、病気が見つかった月だ。時々、思う事がある。京介は、気づいてるんじゃないかと。

「……」

また、沈黙が訪れた。僕は雨に何も感じなくなっていた。


「……何も言ってくれないんだな。いつか言うって言ってくれれば、それで良かったのに」

京介はそう言って下を向いた。

「あの時はもしかしたら、って思ったが、期待した俺が馬鹿だった、」

京介の声は震えていた。

「京介、違う」

僕は咄嗟にそう言い、京介の手を掴んだ。

「何も言えないくせに。もうこれ以上、耐えられないんだよ…」

そう言った京介は僕の手を振り払った。

「僕は…」

言おうとした言葉が、喉の奥に引っかかったように、出て来なかった。声が、出ない。

「……」

京介が、去っていく。まって、と言おうとしたのに僕は何も言えなかった。


手を振り払われた時、一瞬だけ京介の顔が見えた。京介は、泣きそうな顔をしていた。




空を見上げる。雨は痛いほど水滴を僕に叩きつけつける。僕はその場に経たり混んだ。

結局、言いたかった事何も言えなかったな、。あれ、僕って京介に何を言おうとしてたんだっけ。

(「ゆきは、俺の気持ちなんて知らないだろ」)

京介の言葉が蘇る。僕は京介の事を知らな過ぎた。

「馬鹿…」

結局僕は、自分の事しか考えていなかったのだ。そしてまた大事な人を傷つけてしまった。

僕は、どうすれば良かったんだろう。素直に病気の事を、余命を、告げていれば京介は納得してくれたのだろうか。……いや、これで良かったんだ。嫌いになってくれれば、僕が死んでも京介は悲しまなくて済む。

ハルが死んだあと、悲しいとか、辛いとか、そんな単純な気持ちじゃなく、僕は自分自身が憎くてたまらなくなった。自分を責め続けて、結局は壊れてしまった。

京介には、そんなふうになって欲しくない。それなら嫌われた方が良いだろう。僕の心なんてどうでもいい。皆が幸せなら、それで良いんだ…。でも、

どうしてこんなに胸が痛いんだろう。






「及川」

急に手を掴まれる。その手は暖かかった。

「風邪ひくぞ」

声がした方を見ると、木村がそこに居た。

「……先生…。」

気づくと僕は先生に抱えられていた。先生の腕の中は暖かかった。

木村は戻って来ない僕を心配して来てくれたんだろう。僕はふいにも、嬉しいと思ってしまった。

死ぬ前に恋でもしようか

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