「……父が亡くなり少しは変わったのかと思っていたのに、あなたは昔のまま、何も変わってはいないんですね……」
もはや諦めたようにも彼が口にする。
「何を変わる必要があるのです。私は、何も間違ってはいないのに」
「そう…間違ってはいないんでしょうね、あなたの中では何も……。
父の想いもわからないようなあなたは、きっともう一生、自分の間違いに気づくこともできないのだろうと……」
嫌悪感を顕わに眉根を寄せた彼が、
「……私は、彼女といっしょにいることで、相手を想う気持ちの深さにやっと気づけたので……。
……だから、私は、彼女と……永瀬 智香さんと、これからもずっといっしょにいたいんです……」
自らの母親をじっと見据えて告げた──。
それから、ひと息を吸い込むと──
「……あなたには、もうひとつ言っておくことがあります」
と、彼が口を開いた。
「……近野 さつきさんのことです」
不意に切り出された話に、近野さんのことをどうして今……と、その顔を振り仰ぐ。
「彼女も、あなたが私のクリニックに送り込んだ人間ですよね?」
思いも寄らない彼の話に、「えっ……」と、私の口から驚きの声が迸る。
真実を目のあたりにした私自身の方が、大きな衝撃を感じているのにも関わらず、母親である外岐子先生の方はティーカップを手にしたまま微動だにすることもなく、
「……どなたですか? その方は」
と、落ち着き払った声音で尋ね返した。
「……もう、わかっているんです。……ではあなたは、どうやって私たちの付き合いを知ったと言うんです?」
「……そんなことは、いくらでも知る術はあるでしょうに」
紅茶を飲み干して淡々と応える母親に、「いいえ…」と彼は首を静かに横に振ると、
「これが初めてではないですよね? そうしてあなたが私のクリニックへ送り込んだ人間は……」
苦い顔で言い、唇を強く噛み締めた──。
コメント
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お母様、そこまでして自分の意のままに息子を支配しようとしていたなんて😱