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寒い。
まるで身体に「死」が絡みつき、それが全身に満たされていくような不思議な感覚だ。
辺りは真っ暗な闇で、なにも見えない。
後頭部が割れたように凄まじい激痛だ。もはや痛いなんて次元じゃなくて、もうあと数秒足らずで死にそうだった。
なぜそう感じているのか自分でもよく分からないが、まるで全身が砕け石像のようだと感じた。
そして目の前に誰かが現れて、こちらに必死に呼びかけている。
「遥! 遥! 遥ぁ!」
目が覚めると、朝。
私はとっさに後頭部を触ってみた。
しかしやはり、私の身体はどこも怪我なんかしていない。
「ま、まさか、またなの?」
再びすさまじい寒気を覚えた。
私が学校につくと、既に仁美と京子が話をしていた。
「おーす、一花ー」
「一花ちゃん、おはよう♪」
「う、うん。おはよう」
「あのさー、睦月だけどさー」
ドキッとする。そうだ、何一つ考えていなかったが、結局私は睦月に会えてない。
「なんか親の都合でしばらく親戚のうちに行くことになったらしいじゃん」
「え? な、なにそれ」
「え? 一花知らないの? 聞いてない?」
「う、ううん。知らないけど」
「まぁ私も良く知らないんだけど、とにかく親の都合で急に出かけたって。それで連絡が遅れたとか聞いたよ。ね、仁美」
「うん、グループチャットで回ってきたね」
「そ、そうなの」
だが昨日の睦月の家での異常な光景を見た私としては、そんな話は信じられない。
もちろん、私が見たのはただの夢だ。
だが私には、水瀬睦月の死が、なにか不可思議な力で隠蔽されているようにしか感じられなかった。
昨日の夜、ずっと考えていた。
もう二年前の話だから、だいぶ記憶があいまいだったが、
思い返すと睦月は、一年の時も一緒のクラスで、仁美に対して陰で嫌がらせをしていた。
もしも仁美が妖魔で、これがみくりの話していた「妖魔の呪い」なのだとしたら?
(やっぱり、そういうことなの?)
「一花ちゃん、大丈夫?」
「え? えっと、なにが?」
「一花ちゃん、なんだか不安そうな顔してる。そういえば、しばらくパパもママもお仕事の都合でいないんだよね?」
「まぁそうね」
「大丈夫だよ。一花ちゃんは心配しないで。一花ちゃんに悪い事なんか起きないから♪」
「………………………………」
その断定的な物言いは、かえって一花の不安をあおった。
「蓼原」
「えっ?」
私たちは声の主の方を見る。
それは綾瀬七緒だった。
七緒はものすごい形相で仁美を見ている
「アンタだ、アンタがやったんだ!」
「やったって、何が?」
「アンタだろ! 睦月も、遥も、アンタが殺したんでしょ! 今度は私!? 私の事も殺すつもりなんでしょ!? 蓼原! あんだが! あんたがあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
七緒は半狂乱になって仁美につかみかかる。
「ちょっと、七緒ちゃん!」
「七緒ちゃん、やめなよ!」
仁美につかみかかった七緒を、私と京子の二人がかりで制止する。
「睦月も遥も見ているんだ! アンタが二人をつけていたのを! どうせ昔の事でも根に持ってるんでしょ!? アンタなんかに殺されてたまるか! 私は、絶対殺されないからな!」
「――――ッ!」
「ちょっと七緒、なに言ってるんだよ、睦月は親戚の家に出かけてるだけだろ?」
「そんなんじゃない! ぜんぶこいつが――」
「七緒ちゃん、やめて!」
「一花、あんたまで! そうやって仁美の事ばかりかばって! 私は、私は――!」
「七緒ちゃん」
私は七緒を仁美から離しつつ、彼女に耳打ちする。
「あなたの事は、私が助ける。あとでメッセージするから、だから今は耐えて」
「………………………………」
七緒はしばらく物凄い目でこちらを見ていたが、
そのままその場を後にした。
「七緒のやつ急にどうしたんだ? 仁美、気にしちゃダメだからなー」
「うん、私は大丈夫だよ」
私は「先生から用事を頼まれた」と嘘をついて、教会に一人で来ていた。
しばらくそうして待っていると、教会の扉があいた。
「一花……」
「うん」
七緒がやってきた。