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ダイナミックにテーブルの上を転がって、端に雑誌等を寄せると、私の手が届く範囲を台ふきで拭いてくれた。
「よし。じゃあ、カレー作るまで宿題をしてていいぞ」
「一慶さん」
「ん? 分からないとこある? 俺に聞いちゃう? 筋肉馬鹿に聞いちゃう?」
頼られて嬉しいのか、とろけんばかりのハムスターが私を見てくる。
ので、私はカバンを大きく振り回した。
「へへ。カバンの中身、何も入ってないみたい」
保健室まで行ったのは覚えているが、どうして私は自分のカバンを持っているのか分からない。水咲や亜里沙先輩とかなら宿題や筆箱ぐらいは入れて持ってくれそうだ。
自分で気づかないうちに、机の横にかけてあったカバンだけを持ってきたのかな。
「もー。可愛いから許すうううう」
「ありがとう」
「俺、お見合い始めてから流伽が勉強しているとこ見たないぞう」
漫画しかないってカバンを披露しただけだ。
宿題というものは朝、一河や水咲に教えてもらってやるものだから持って帰りたくなかった。
「じゃあ、皆がお料理してる間、このテーブルの上を片づけておくよ」
「だめだ! 男の花園に足を踏み込んではいけない」
そんなにテーブルの上のものを見られたくないのなら、ちゃんと片づけておけばいいのに。
でもハムスター総出でカレーを作っているのに、私が何もしないのは申し訳ないな。
「えっと一慶くんの初恋の君~」
おっとりした声と同時に肩を叩かれて、振り返る。
そこには、男の園には似つかわしくない、綺麗な大人の女性が立っていた。
大和撫子という言葉が瞬時に浮かび上がるほどお淑やかそうな、艶やかな黒髪に大きな瞳、上品な桃色の頬。
「お名前は~?」
「流伽と申します!」
「流伽ちゃんね。可愛い~。皆がカレー作ってる間、暇でしょう。私とおやつにしない?」
「はい、あの」
「私、吾妻団体の事務で働いていて、そこの社長の奥さんしてまーす。笹目です。よろしくね~」
ふわふわとした美人に微笑まれ、思わず見とれてしまった。
なんと美しい人なんだ。
「あ、タオルだけ畳んでしまうからちょっと待っててね」
ち ょ こ 。
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パタパタと可愛らしい足音共に、庭に出る。ついて行くと、干されている夥しい数のタオルに驚いた。
「あー。すぐ終わるから座ってていいのよー」と言いながら、そのタオル全てを山のように抱えて、部屋の中に入ってきた。
少しでも手伝えればとタオルを持とうとしたら、さらに上に持ち上げられ「本当に大丈夫だから座ってて」とリビングに通された。
そのリビングにはカウンターにぎゅうぎゅうにトロフィーが飾られ、壁には賞状や写真が額にいれ飾られていた。
ちょこちょこハムスターの写真が見えるけど、これがたぶん子ども時代の一慶さんなんだろう。
写真の中の彼でさえハムスターに見えてしまうなんて、恋愛結婚憧憬症候群はけっこう重たい病気なんだ。
その中に、レスリング姿でチャンピオンベルトを持った筋肉質な女性の写真があった。
その写真とタオルを高速で畳んでいる笹目さんを交互に見る。
顔は同じだけど、写真の中の笹目さんは体が二倍ぐらい大きいような。
「あ~見たのね~。私も昔、ブイブイ言わせてたのよう」
「ぶ?」
ぶいぶい?
「あら、古い言葉なのかしら。最近見たヤンキー漫画に載っていた言葉だからナウいのかな~て思ったのに」
ナウい?
この綺麗な女性、何歳なのかな。聞けなくてへらへらと笑ってしまった。
「あのね。一慶くんって今では王子様っていうけど、保護されたときはあの体型でしょう。今の体のラインになるまですっごく努力したのよ」
「今の体のライン?」
ハムスターならではのぽちゃっとした体系ではなく、本来の筋肉質の姿ってことかな。
「ふふふ。内緒よ。昔はほら、押し入れの中で一歩も動くなって閉じ込められてたでしょ。でも虐待がばれたくなくてご飯は沢山貰ってたからね、すっごくふくよかな体だったの」