TellerNovel

テラーノベル

アプリでサクサク楽しめる

テラーノベル(Teller Novel)

タイトル、作家名、タグで検索

ストーリーを書く

シェアするシェアする
報告する

私たちは、気分転換のために裏庭へ来ていた。

心が曇ったときは、空に輝く太陽でじめじめ気分を吹き飛ばしてしまおう。


幸いにもこの街……いや、この大陸はずいぶんと天候が安定している。

外に出ればいつでも、良い天気が当然のように広がっているのだ。……たまには曇りのときはあるけど、雨は未だに見たことが無い。


裏庭の片隅では、いつものようにハーマンさんが庭木仕事の準備をしていた。

その周囲では、ダリル君とララちゃんが元気にお手伝いをしている。


「――はぁ……。平和ですね……」


ぼそっと言ったのはテレーゼさん。

この光景はそれ以上でも、それ以下でもない。何だかそんな、等身大の平和のような気がした。


「そうですね……。

何でもないときが、一番しあわせなのかもしれませんね」


……うん、良いことを言ったぞ。多分。


「何でもないとき……。そうですね、それがずっと続けば良いのに――」


――その言葉に軽く頷いてから、しばらく二人で時間を過ごしていった。

特に会話は無かったけど、たまにはこういう時間も良いんじゃないかな。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




「それではお世話になりました!」


11時頃、テレーゼさんが帰るのに合わせて、玄関で見送りをすることに。

ルークとエミリアさん、あとはキャスリーンさんとルーシーさんが来てくれた。


「テレーゼ様、ケーキは美味しく頂きました。

それで、もしよろしければこちらを――」


そう言いながら、ルーシーさんは小さな包みをテレーゼさんに渡した。


「え? これは何ですか?」


「ケーキのお礼に、クッキーを焼かせて頂きました。

アイナ様には許可を頂いておりますので、どうぞ召し上がってください」


……そう言えば昨晩、ルーシーさんからそんなことを聞かれたっけ。

メイドさんからお客様にお礼……っていうのも変な感じはするけど、ルーシーさんがやたらと乗り気だったので許可はしていたのだ。


「わぁ、ありがとうございます!

それじゃ次は、クッキーを焼いてきますね!」


「いえ、お構いなく……」


……うん。

お返しを続けていたら、毎回お菓子を交換することになっちゃうからね。


テレーゼさんはクッキーの包みを鞄にしまうと、ふと目が合ったキャスリーンさんに深くお辞儀をしていた。

キャスリーンさんもそれに釣られて、優雅にお辞儀を返していた。


これも何だか不思議な光景だ。

やっぱりテレーゼさんって、不思議な空気を作る人なんだよね。

……これは多分、きっと褒め言葉だ。



「それではエミリアさんとルークさんも、ありがとうございました!

また来たときは、遊んでくださいね!」


「はい、また来てください! ……って、ここはアイナさんのお屋敷ですけど」


「ははは、私もお待ちしておりますので」


「――それじゃ、これから二人で行くところがあるから。

行ってくるねー」


四人の見送りを受けながら、玄関を出て、扉を閉める。

目の前に広がるのは広いお庭と晴れた空――


「……それで、最後に行きたいところってどこですか?」


裏庭にはさっき行ったから、残りは工房かお店……くらいしか残っていないけど。


「はい、お店を見せてください!」


「分かりました。鍵は持っているので、このまま行きましょう」


……さて、お店に行くルートは2つある。

裏庭を通り抜けてお店の裏側から入るものと、一旦外に出てからぐるっとまわってお店の入り口から入るもの。


私たちは既に見送られて出てきているのだから、今回は後者のルートで行くことにしよう。

裏庭を通り抜けようとして、さっき見送ってくれた誰かに目撃されたら……微妙に気まずいだろうしね。



昼前の暖かな陽気の中を、他愛も無いお喋りをしながらしばらく歩く。

お店の前に着くと、微妙に草が伸びているのが気になった。


さすがにここは、ハーマンさんもあまり目が届かないか……。

……いや、むしろお屋敷の外なのに、ここも面倒を見てくれているんだよね。


いや、いつもありがとうございます。感謝感謝――

そんなことを思いながら、鍵を開錠して扉を開ける。



カランカラン♪



「あ!」


「え?」


「この鐘、ジェラードさんからもらったものですよね!

雰囲気があって、とっても素敵です!」


「ですよね! この鐘、凄く気に入ってて♪」


そのまましばらく鐘を鳴らしてから、私たちはお店の中に入ることにした。



「わぁ! 結構いろいろと並んでいますね!」


テレーゼさんはお店の中をぐるっと見回して、嬉しそうに言った。

最近は何もしていなかったけど、少し前に出来るだけは並べていたんだっけ。


「――とぅえっ!?」


「え?」


突然、テレーゼさんが変な声を出した。

彼女はそのまま、お店の奥にある巨大な物体に向かっていく――


「ああ、そう言えば出しっ放しだった……」


――テレーゼさんはお店の看板キャラ、2メートルのガルルンに思いっきりぶつかっていった。


「おー、これが噂のガルルンのぬいぐるみですね!

すっかり忘れてました! バーバラちゃんから聞いてはいたんですけど!」


「ふふふ、これもとっても良いでしょう?

一目見たら、誰も忘れられなくなると思いますよ!」


「確かにそうですね!

あ、小さい置物もあるんですね。わー、可愛いー♪」


「おぉ、テレーゼさんはガルルンの良さが分かりますか!

それでは特別に、お好きなものをひとつ差し上げましょう」


「え、良いんですか!?」


「元々は布教用ですからね。

お友達や知り合いの方にも宣伝しておいてください。それが代金ということで」


「それじゃ、お言葉に甘えて! ……あ、これが良いです! これください!」


たくさんのガルルンの中からテレーゼさんが選んだのは、ごく普通のガルルンだった。


「ふむ……。スタンダードタイプをお求めとは、お目が高いですね……」


基本があってこその応用。

布教用というのであれば、基本を攻めていくのが正道だ。


「わーい、アイナさんに褒められました!」


「大切にしてくださいね。まだ数はそんなに無いので――」


……数?

そういえば、残りのガルルンの置物ってどうなったんだろう?

ガルーナ村で発注した置物のうち、およそ半分はまだ受け取っていないのだ。


うーん、しまった。冒険者ギルドに行ったときに確認しておけば良かったかな……。

そこまで急ぐものでも無いけど、時間があったら明日にでも行ってみることにしよう。



「――さて、思わぬ収穫がありましたが、本命の錬金術のアイテムを見せてください!

私も錬金術師ギルドの職員ですからね。びしばし拝見しますよ!」


「え? もしかして、ダメ出しされちゃう感じですか!?」


「ご安心ください! 私は販売や検品の担当ではないので、深いことは何も言えません!」


「あ、そうですか……」


その後、本当に並んでいるものを見るだけの時間になってしまった。

このお店はまだ開店していないけど、ウィンドウショッピングみたいなことは問題なく出来るからね。


私は私で、色々なことを話し続けるテレーゼさんを見ながら、営業を始めたらこんな感じで接客するのかな――

……などと、ぼんやり思い描いていた。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




カランカラン♪



最後に鐘の綺麗な音を聞いてから、扉をしっかり施錠する。


「ご案内ありがとうございました!

とっても良いお店ですね。開店が楽しみです♪」


テレーゼさんは無邪気にそう言った。


「王族の方からも、開店のことは言われているようですね。

……ダグラスさんが」


「そうですね、主任もたまにボヤいてますよ。

いつも、何だかんだで誤魔化しているみたいですけど」


「あはは……。それはありがたい……」


「いえいえ。そんな仕事は、出来る人がやっておけば良いんです。

錬金術師ギルドは、錬金術師の方をサポートする組織なんですから!」


「おぉ……。今までで一番、テレーゼさんが錬金術師ギルドの職員に見えました……!」


「えぇーっ!? 何ですかそれー!?」


「あはは、ごめんなさーい♪」


……あとは別れるだけ。それだけなのに、何となくずっと一緒にいてしまう。

ここのところ、急にテレーゼさんと仲が良くなった気がする――



「――私、アイナさんのことをずっと応援していますから」


「え? ……急にどうしたんですか?」


「最近は、とってもご迷惑をお掛けしたと思います。

でも、ずっと側にいてくれて、とっても嬉しかったです。だから、私はこれから恩返しをしたいんです!」


「いえいえ、気にしないでください。どうってことは無いですから」


「ダメです! ……でも私、何が出来るかは分からないから――

とりあえず今の仕事を頑張ります! もっともっとアイナさんに頼ってもらえるような、そんな職員になります!」


テレーゼさんは、まっすぐな目で私を見つめてくる。

最初は、賑やかでぐいぐい来る、ちょっと距離感の分からない女の子――そんな風に思っていたけど……。


……でも、根は真面目で、優しくて良い子だ。

最近、そのことがとっても良く分かった。



「――ありがとうございます。

それじゃ折角なので、ダグラスさんから私の担当をもぎ取ってください!」


「う……っ!

ああ見えて主任、結構仕事ができるんですよ……。でも、そうですよね。まずは目の前の敵を倒さないと……!!」


「え? いや、ダグラスさんは味方では……?」


「私をアイナさんの担当にしてくれない敵です!

だから、まずはそこを倒します!!」


「は、はぁ……」


「私、頑張りますから! 本当に頑張りますから!!

――それじゃ、今日はこれで失礼しますっ!!」


「あ……っ」


テレーゼさんは私の言葉を待たず、走り去ってしまった。

さっきの言葉は、彼女なりの決意表明――


私は彼女の言葉を頭の中で繰り返しながら、しばらく立ち尽くしてから……お屋敷に戻ることにした。

異世界冒険録~神器のアルケミスト~

作品ページ作品ページ
次の話を読む

この作品はいかがでしたか?

33

コメント

0

👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!

チャット小説はテラーノベルアプリをインストール
テラーノベルのスクリーンショット
テラーノベル

電車の中でも寝る前のベッドの中でもサクサク快適に。
もっと読みたい!がどんどんみつかる。
「読んで」「書いて」毎日が楽しくなる小説アプリをダウンロードしよう。

Apple StoreGoogle Play Store
本棚

ホーム

本棚

検索

ストーリーを書く
本棚

通知

本棚

本棚