連載・第4話:
夢の世界が崩壊し始めていた。
天井は割れ、空が上下逆転し、偽りの建物が灰に還る。
そこに立っているのは、たった二人。
本物のポオと、本物の乱歩。
そして、その間に生まれた“境界線”が揺れている。
「……ここが限界みたいだね」
乱歩が、最後の線香花火のようにゆらゆらと光る意識を保ちながら笑う。
「ここから先は、誰にも入れない。“心の最深層”だって」
ポオは周囲を見渡し、そして乱歩の手を見た。
「君は……自分を犠牲にするつもりか?」
「ううん。たぶん、そうじゃない」
乱歩は、ポケットから“あの夢の世界でポオがくれたぬいぐるみ”を取り出す。
「これ、現実には存在しない。でも、ちゃんと覚えてる」
「……夢の記憶は不確かだ」
「それでも、気持ちは本物だよね?」
虚無が迫るなか、ポオが乱歩の腕をつかんだ。
「君は、“本物”だった。夢でも、現実でも。吾輩があのとき言ったこと、全部……」
「うん。聞いてた。覚えてる」
乱歩はそっと、ポオの胸元に額を預ける。
「ねぇ、ポオくん。じゃあ、聞いて。──僕も、君が好きだよ」
世界が、一度、完全に崩れた。
夢も現実も消え去って、ふたりは“ただの感情”だけになる。
言葉も、姿も、存在もない。けれどその中に、たしかに互いを求める“想い”だけがあった。
それが、鍵だった。
次の瞬間、ふたりは目を覚ます。
現実の世界。探偵社の研究室。朝の光が差し込んでいる。
乱歩は、目を開けたポオと視線を合わせた。
「……おはよう」
「……ああ。おはよう、乱歩君」
数秒の沈黙。
そのあとふたりは、同時に笑った。
あの日、夢の中で交わした言葉が、“現実”になったから。
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