テラーノベル
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一方の陽一はというと──
(……くっ、少し苦しいけど、こうしておけば、バレないはずだ……っ!)
朝、僕は洗面所の前で、普段は開けているワイシャツの第一ボタンをきっちり締め、ネクタイをこれ以上ないほど丁寧に結び上げた。すべては、昨日つけられた白石さんからの「マーキング」を隠蔽するためである。
(ひどいなこれは……。CSSで非表示にできるレベルじゃない。完全にアウトだ……っ!)
鏡の中の自分は、まるで見え透いた嘘をついている容疑者のように、どこか挙動不審だった。それなのに、白石さんはというと、朝から相変わらずで……。
朝のオフィスビル、エレベーター内。
「陽一さん。そんなに襟元を詰めて……。暑くないですか? 少し、緩めてあげましょうか?」
満員のエレベーターの隅。他の社員たちも乗り合わせている中、彼女は僕にしか聞こえない小声で囁き、わざと指先で僕の襟をゆっくりとなぞった。
(……っ! 第1ボタン周辺で、未認可の外部デバイス(彼女の指)による強制アクセスを確認……!)
心拍数が跳ね上がり、背中に嫌な汗が流れる。
(やめろ……っ! 今ここでログイン認証(襟の開放)をされたら、僕の社会的地位が強制シャットダウンされる……! 待て、そこは最重要ファイアウォールだ! 今、そのパケット(襟)が開かれたら、昨夜の甘いログ(キスマーク)が全世界に公開されてしまう……!)
パニックに陥る僕を尻目に、彼女は降り際、とろけるような笑みを浮かべて耳元で追い打ちをかけた。
「……今日、会社で隠し通せたら。おうちでは『もっと深い場所』に、刻んであげますね? ♡」
芙月みひろ
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#王子
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