テラーノベル
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「よし、それじゃあ作戦通り、僕はこれから女子ファンクラブの幹部たちと『交渉』に行ってくるよ」
日の落ちた寮の部屋で、新庄駿(しんじょう しゅん)はウサ耳パーカーのフードを深く被り、不敵な笑みを浮かべた。その手には、1枚のSDカードが握られている。
「おい駿、本当に大丈夫なんだろうな……?」
小形遥太(こがた はるた)が、長い袖の隙間から不安そうにトイプードル耳を覗かせる。
「僕たちのプライベートを切り売りするなど、論理的とは言えない。本当にその『交渉』で、盗撮行為やファンクラブの暴走が止まるんだろうね?」
末田渉(すえだ わたる)も、不機嫌そうにフサフサの猫尻尾をパタパタと揺らしながら念を押した。
「ノンノン、二人とも僕を信じてよ。怪盗たるもの、ターゲット(女子たち)の心理を逆手に取るのはお手の物さ」
駿はウィンクを決めると、影に潜むようにして部屋を飛び出していった。
彼が向かったのは、学園の旧校舎にある、ファンクラブが秘密裏に根城にしている空き教室。
駿がドアを開けると、そこにはノートPCや超望遠レンズ付きカメラに囲まれた、ファンクラブの幹部(女子生徒たち)が数名集まっていた。
「あら、新庄くん? うちの支部に300人しか登録者がいないからって、直談判に来たのかしら?」
幹部の女子がニヤリと笑う。
「まさか。僕は今日、君たちに『素晴らしい取引』を持ちかけに来たんだ」
駿はポケットから、例のSDカードをスッと差し出した。
「この中にはね……今日の魔術授業の後、恥ずかしさのあまり一つの毛布に二人でくるまって、お互いに背中を丸めて縮こまっていた『わたはるペアの完全非公開・超限定ショット』が入っている。……画質は4K、もちろん最高のアングルさ」
「「「な、何ですって――!!!???」」」
幹部たちの目の色が一瞬で変わった。
「わたはるが……一つの毛布に……!?」
「そんなの公式に上がったら全女子が尊死して学園が崩壊するわ……!」
「欲しいかい?」
駿はSDカードを指先で弄びながら、怪盗キッドさながらのキザな笑みを浮かべた。
「ただし、タダでは渡さない。これを譲る代わりに、僕から3つの条件(予告状)を提示させてもらうよ」
幹部たちはゴクリと唾を飲み込み、駿を凝視する。
「1つ、僕たちの寮の部屋に対する一切の盗撮行為を即刻禁止すること。
2つ、校門や廊下での待ち伏せを止め、僕たちが普通に歩けるルートを確保すること。
そして3つ――遥太と渉の前で、絶対に『可愛い』『はるたん』『わたるん』と呼ばないと誓うこと。
……どうだい? この条件を飲むなら、このレジェンドデータを君たちに永久譲渡しよう」
部屋に緊張が走る。幹部たちは額に汗を浮かべ、激しい脳内会議を繰り広げていた。
(盗撮を止めれば、あの神がかった『わたはる毛布ショット』が手に入る……。でも、本人たちの前で『可愛い』って叫べないのは拷問……。いや、でもこの限定データはここで逃したら二度と手に入らない……!)
「……わかったわ。その取引、乗るわ」
苦渋の決断を下した幹部が、震える手で契約の握手を求めてきた。
交渉は、駿の完全な勝利に終わったかに見えた。
◇
数十分後、駿はホクホク顔で男子寮の部屋に戻ってきた。
「みんな、ただいま! 完璧さ、怪盗の交渉術にかかればあんなもの――」
「駿……貴様、何というデータを渡してきたんだ……っ!」
部屋に入るなり、渉が般若のような顔でノートPCを駿に突きつけてきた。画面には、ファンクラブの掲示板が映っている。そこには、駿が渡したはずの「わたはる毛布ショット」が爆速でアップされていた。
「あれ? 条件通り盗撮は止まるはずだし、二人の前で『可愛い』って言わない約束に――」
「そこじゃないよ!!」
遥太が顔を大爆発の火山みたいに真っ赤にして叫んだ。
「掲示板のタイトルを見ろ!!」
駿が画面に目を凝らすと、そこには幹部たちによって書き込まれた、新たなスレッド名があった。
『【重要なお知らせ】本日より本人たちの前での「可愛い」発言および盗撮は全面禁止(※破ったらファンクラブ除名)。これからは、物陰から静かに、呼吸を止めて、彼らの「尊さ」を心の目とこの限定写真で愛でる「ステルス追っかけ期間」に突入します。はるたん、わたるん、尊い(心の声)』
コメント欄には、『了解! これからは無言で尊死します!』『心の声で叫ぶわ!』『毛布わたはる最高すぎて無言で涙流してる』と、女子たちの狂気的な書き込みがさらに1万件近く増えていた。
「……えーっと、一応、面と向かって言われるのと盗撮は無くなったよ……?」
駿が冷や汗を流しながらウサ耳をすぼめる。
「方法論が変わっただけで、女子たちの狂気の総量は1ミリも減っていないどころか、余計に潜伏して不気味になったじゃないか……っ!」
渉がメガネを曇らせ、羞恥心で猫耳をパタパタと痙攣させる。
「明日から学校で、女子たちが無言で僕たちを見て泣いてるってこと!? 余計に怖いよーーー!!」
遥太が萌え袖で頭を抱えてベッドに転がった。
「……ハハ、まぁ、怪盗の予告状もたまには計算が狂うってことだな」
流空が狼耳を揺らしながら、呆れたように小さく笑うのだった。
新庄 駿
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茶々丸
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コメント
1件
この第3話、めちゃくちゃ面白かったです!「交渉」というタイトル通りの展開かと思いきや、駿の作戦がまさかの裏目に出て、女子たちの狂気がむしろ深化してしまうラストが最高でしたね(笑)。特に「ステルス追っかけ期間」という新たなフェーズに突入したことで、遥太と渉のさらなる受難が予感されてワクワクします。ウサ耳パーカーの駿のキャラ立ちも見事で、怪盗気取りの自信満々な姿勢と、まさかの計算違いで慌てるギャップがたまりません。伏線の回収と新たな問題の提示、どちらも見事に消化したエピソードでした。続きが気になります!