学校が好きかどうかと聞かれれば、どちらでもないと答える。
勉強はめんどくさいけど、嫌いではない。部活は読書部なるところに幽霊部員として所属している。
可もなく不可もなく、無難な学生生活を送っていると断言できる。
「よっ、今日も眠そうだね」
そう言って隣の席に座るのは墨刺飾切。
中学生から同じ学校で、話しやすく気が合うのでよく絡む。
見た目も可愛く男子に人気があるが、本人は付き合う気などないと断言している。
「飯田って肌めちゃくちゃ綺麗だよね。なんかやってる?」
俺をじっと見つめてくるその顔は、確かに可愛い。男子に人気があるのも頷ける。
「あぁ次生堂の化粧水使ってるのと、寝る前のパックかな」
「まじで!? 私よりしっかりやってるじゃん」
「今の御時世珍しくもないだろ。肌ケアは若いうちからやっとくもんだ」
俺が手を出すと墨刺は驚いた顔をするが、すぐに意図を理解したらしく恐る恐る手を伸ばし、俺の手の甲をツンツンと触る。
「うわっもちもちだ! 肌もきめ細かいし」
頬を赤くして、嬉しそうに俺の手の甲を突っつき続ける墨刺を呆れて見ていた俺はふと他人の視線に気が付く。
その視線の主は、俺たちが手を伸ばして道をふさいでしまった為、自分の席に行けずオロオロしていた。
遠回りすればいいのだろうが、それも目が合った手前角がたつと遠慮したのか、その方法が思い付かなかったのかは知らないが、通せん坊している俺と墨刺の手を見てキョドっている。
「ごめん、墨刺手を離してくれるか?」
ふふふっと気持ち悪い笑みを浮かべながら俺の手を突っつく墨刺の手を離すと、墨刺は名残惜しそうに手を離す。
肌の感触が気に入ったのかは知らないが、突っつき続けるのは勘弁してほしい。
「わるい、邪魔だったな」
「い、いえっ、ご、ごめんなさいっ」
俺と墨刺が手を離し謝ると、逆に勢いよく謝られ小走りに自分の席へ向かう。
セミロングの髪の毛先を揺らし、勢いよく座るその女子生徒の名は憧憬恭美。
メガネをかけた、いわゆるメガネっ娘。口数の少ない大人しく目立たない女の子。
「気になるな……」
頬杖を付ながら、どこかおどおどとした憧憬の背中を眺める。
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