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桜の花が堕ちるまで

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桜の花が堕ちるまで

23 - Episode L④

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2025年05月11日

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こんにちは!!

今回はいつもより長くなってしまったので、時間に余裕がある時に見てください(約5000字)。

注意書き諸々も省いております。ご理解の方よろしくお願いします。



それでは、行ってらっしゃいませ〜。









無線番号を[1]に戻す。

犯人たちをプリズンへ送り、俺は牢屋で1人息をついていた。誰かから貰った煙草を吸って、溜まったストレスを吐き出すも好みが合わず、つい顔をしかめた。しかし、吸っていれば慣れてくるもので、たまには甘いやつも買おうかなんて冗談をぼやく。すると、無線特有のピピッという音が鳴り、それに続いて微かなノイズが聞こえた。それは恐らく、誰かの呻き声と手錠をする音だ。

(ん、気のせいか?いや絶対聞こえた、よな?)

数秒間聞こえた謎の音を他に聞いた人がいないか、無線を通して尋ねてみる。


『今、どなたか無線しました?なんかしら音を鳴らしたとか…。』

『……。』


(……無視マ!?あ、いやそもそもみんな別の番号にいんのか。戻し忘れる人とか結構いるし。)

手錠の音が誤って入るとしたら、牢屋対応の時くらいだろう。しかし、そもそも牢屋には俺しかいないし、タイミング的にも無いに等しい。あと考えられるのは署員の誘拐だが、無線の応答がないためこれも違う。共有しているGPSも特に問題はなさそうだった。


『…ん、なんか言わんかった?』

『音鳴さん、さっき呻き声と手錠する音聞こえなかった?聞こえたの俺だけ?』

『あ〜いや、なんも聞こえんかったわ。ちょっと色んな人と話しててん、音は拾いきれんかったかもすまん。』

『OK、ありがとう。』


遅れて反応してくれた音鳴さんは、こう言っている。気のせいにしてははっきりと聞こえたが、気のせいにする他なくなってしまった。[1]に次々と署員が帰ってくるなり小型犯罪の通知が鳴るなり、打って変わって無線は騒がしくなる。この少しの突っかかりが後悔する種になるのだが、俺は躊躇いながらも底に埋めてしまった。








『おかえり〜、何拾ったん?』


ヘリの修理をしている刃弐と談笑していると、また音鳴さんの声が聞こえてくる。俺と会話をして以降ずっと聞こえてきて、恐らく誤作動してるんだろうなと察す。


「これ、前もやってたって。」

「ダハハッ(笑)なんかカッコつけてない?」

「めっちゃ馬鹿にするやん蓮くん。」

「いや、俺もこれやったことあるけど、音鳴さんめっちゃ馬鹿にしてきたんよね。マジで許せねぇ。」

「なるほどね(笑)復讐してんだ。」

「そうよ?反省するべきでしょ、音鳴ミックスは。」


そう言いつつも、俺は音鳴さんが何をやっているのか気になっていた。刃弐からは、多分芹沢さんと一緒にいると聞いていたが、明らかにデートという雰囲気の会話ではない。その後も盗み聞き(?)を続けていると、2人はレダーさんを探しているようだった。

(そういえば、レダーさんと対面で話したの、仮眠室連れてってもらった時が最後だ。)

ふわりと撫でる温かい感覚を思い出す。長い間警察官を務める彼が、沢山の人から信頼されているのは周知の事実だ。あのタコさんと芹沢さんが呼び捨てするぐらいだから、相当の積み重ねだろう。そんな彼は俺の親父とよく似ていた。親父よりもおじさん臭いけど、なんだか、少し目を離した隙に消えてしまうような。いつでも遠くに行ってしまうような、そんな距離の置き方が、言葉で例えようにも例えられずにいた。ふと、さっきの無線の音を思い出す。あれが、もしレダーさんの誘拐の瞬間だったら。そう仮定し始めると止まらず、後悔と心配ばかりが前のめりになっていった。かつての誘拐で味わったあの孤独感が、俺の視界をぼかしていく。すると、刃弐がヘリを起動させる音が聞こえて我に返った。

(よし、俺も対応しに行かなきゃ。思い過ごしであってくれ、大丈夫、何も無いはず……。)

直近で鳴った小型犯罪の通知を見て、俺は足早に駐車場へと向かった。








『聞いて、レダーさんは多分誘拐された。蓮くんの無線鳴ったってやつ、音鳴たちの行ってるバーとそこでの証言、全部聞いてたけどギャングのボスに連れ去られたで合ってると思う。』

『はい?レダーさん誘拐マ?』

『とりあえずそのギャングのシマ的に、北の〇〇か〇〇(番地)で拉致されてるかもだから、刃弐がサーマル行ったげて。』

『OKっす。』

『蓮くんはパトカーでレダーの方向かって。』

『了解!』

『音鳴と芹沢もそのまま北に直行していいよ。ちなみに音鳴は無線全部入ってたから、どうにかしときなよ。それ以外の署員は、今起きた大型犯罪の対応を無線2番でお願いしまーす。』

『──────!』


(やっぱりあの時、誘拐されたんだ…。)

俺がもっと早く救えたかもしれない、そんな思いはアクセルを踏む力に変わる。そして、救えなかった最悪の時より、救うために今出来ることを考えよう、と脳みそを切り替えた。


『あ〜、サーマルで見る限り〇〇(番地)の方だわ。』

『りょーカイ。レダーは?』

『それっぽい人見えたし、ちゃんと熱源もあるから大丈夫だと思う。ちなみに、敵めちゃめちゃいる。』

『いやいや、全部やるっしょ。』

『そうよね。いっちょ救ったりますか〜。』


刃弐に言われた番地で合流すると、早急な作戦会議が開かれた。見張りは芹沢さんがあっという間にダウンさせたようで、中から応援が来るのは時間の問題らしい。こちらは空1人地上3人、ギャングは二十数名。単純計算だと1人5人はやらなければいけないが、そう上手くいくのはゲームくらいだ。なにか良い作戦はないか、と各々障壁に隠れて考えていると、隣にいた芹沢さんがあっと声を出す。


『何かさ、敵を陽動するための音鳴るやつナイ?オレ無線かスマホがいいかなって思うケド。』

『無線はあった方がいいんちゃう?スマホを犠牲にすれば、着信切れたら周辺に敵いるってのも分かるし。ラークで1人になっても何人かは倒せそうやな。』

『まぁしばらくは俺サーマル見てるけど、最悪地上行かないとだし。それいいかも。』

『じゃあ分かれて攻めて、敵の位置とか陽動のタイミングは刃弐が言っテ。』

『おっけ〜、とりあえず手前に3人来るから正面で陽動して、音鳴さんのいる右から詰めたいな。』


3人の無線を聞き、冷静な判断に感動する。この立ち回りと発想が、俺には足りない染み付いた座学と経験の差だろう。仲間を救うという意思が誰より強くても、補えないものはあるのだ。そんな少しばかりの劣等を感じていると、つんと脇腹を突っつかれる。


「あっちにスマホ置いてきたから、電話かけテ。」

「あ、OKっす。」

「牢蓮は強いから、これから10人やっちゃうんだよネ。」

「え、俺1人で10人!?無理ッ!?」

「いやいや、じゃないと殺すヨ?」

「え俺味方ッ!?終わってる、その場合は。」

「ハハッ(笑)」


俺が鳴らした着信で注意をそらし、別方向から射線を通す。この陽動作戦はかなり効果的だった。芹沢さんのスマホは無事だったが、いつ壊されるかは分からない。こちらの作戦がバレて壊された時は、経費で落とすかレダーに払ってもらおう、と彼女は冗談交じりに言っていた。

(いや、これマジなやつだ。レダーさんって尻に敷かれるタイプなんか?)

自分の中で解釈不一致を起こしている間にも、敵は次々とやって来る。10人やらなければ殺されるという枷と、レダーさんに何を奢ってもらおうか等を考えていれば、敵は残り数人にまで減っていた。








(スマホはとうに壊されたし、陽動作戦もバレてきたな…。)

辛うじて皆生きてはいるが、対策をされながらもギリギリ撃ち勝っている、という状況が続いていた。あとは最奥の部屋、レダーさんが捕まっているところだけなのだが、突如ダウン通知が鳴る。


『あ、音鳴さん相打ちでダウンしたな。これ、救急隊介入出来ないから、殲滅するか俺が今回収するかしかないか?』

『一旦殲滅狙いたいけど、回収した方が安全カモ。』

『OK、じゃあ今からサーマルはずすよ。』


残った俺と芹沢さんに緊張が走る。部屋の中から音は一切聞こえず、刃弐が言っていたようにレダーさんと犯人(ボス)1人がいると推測した。こちらは2人、敵が1人なら最悪片方ダウンしてもすぐにカバーが出来る。

(でも、本当に正面突破でいいのだろうか。)

不安になるももう他に手立てはなかった。ドア前にて芹沢さんとアイコンタクトを交わし、息を合わせて中に突入する。中にいたのは、誘拐したであろう犯人のボスとレダーさんのフリをした他ギャングのボスだった。








「銃を捨てて両手を挙げろ。」


そう脅され、俺たち2人は従うしかなかった。警察のサーマルを逆手に取り、俺たちはまんまと騙されたのだ。加えて、レダーさんの安否が取れず、頭の隅に置いた最悪の場合を想像してしまう。横にいる芹沢さんも、悔しさで下唇を噛み千切ってしまいそうだ。


「残念だったな、大切な仲間を助けられない挙句、自分たちもやられるなんて。」


その言葉に、俺は何も返せなかった。絶望の淵に立たされ、何も出来ない自分が無力で仕方ない。それでも足掻こうと、何か突破口がないかと必死に思考を巡らせる。


「こいつら、口割ってもらうだけ割ってもらって、警察に突き返すか。」

『芹沢さん、蓮くん?そっち大丈夫?』

「最近調子乗ってる警察誰だっけ、成瀬タコとか言ったか。署長はもうじきあれだし、そっち誘き寄せてみるか。」

『……、もしかしなくても捕まった?一応、音鳴さん助けに行ったんだけど。』

「警察が崩壊するのも時間の問題だな。あのネズミもまだ使えそうだし。」

『なんか隠し通路みたいなとこあって、レダーさんいたよ、生きてた。すぐにそっち行く。』


(生きて、た?)

死に至らないこの不思議な世界で、生きてたという言葉は馴染みづらかった。しかし、ギャングは何をしてくるか分からない、簡単に死を与えてくるかもしれない。きっとあの1件がトラウマになって、過剰に俺の不安を掻き立てていたのだ。それでも常に仲間がそばに居て、仲間が生きてくれて、俺は安心出来る。辛くても、笑って楽しい日々を過ごせている。

(あとは、俺らがこの状況を打破するだけだ。)


「すんません、1個死ぬ前にやりたいことあって。……いいすか?」

「なんだ、命乞いでもするか?まぁ、持ち物はほぼ預かってるし聞いてやらんこともないな。」

「その…煙草1本だけ吸わせてくれません?」

「煙草?」

「はい、よくゾンビ映画とかでやるじゃないっすか。死ぬ間際に1本だけ吸うやつ、あれやりたいんっすよ。」

「なるほど。でも不必要に動かれたくないんですよね。」

「いや、手は挙げたままでいいっすよ。煙草を口に咥えさせて、そのまま火をつけてもらえればそれだけで。」


中々渋ってはいたが、最期くらいいいじゃないかと儚げに訴えると了承は貰えた。案外ギャングは情に厚いのかもしれない。そうして、俺の持ち物からあの甘い煙草を1本取り出し、ボスの1人が口を開けろと言って差し込んできた。芹沢さんに目配せをしつつ、火をつけられた瞬間に煙を一気に吸い込む。そして、その様子に苦笑する相手目掛けて、真っ直ぐ吐き出した。その煙は目に直撃したらしい。

(今だ。)

敵が脇に挟んでいた銃は床に落ち、俺は素早くそれを取り上げて別のボスにヘッドショットを決める。それを見ていた芹沢さんも、どこかに隠し持っていたナイフを取り出し、目を眩ませたボスの方に刺した。仕上げに、取り返した手錠を2人にかけて、この事件は収束へと向かったのだ。



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