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意識が闇底からゆっくりと浮上する。 「……うっ、ここは……また生きてる、のか……?」
全身が痛む。バラバラになった意識をかき集め、モルグは薄く目を開ける。誰も見ていない隙に、そっと周囲を窺う。
(生き返ったことがバレたら、また躊躇なくやられる……どうすれば――)
呼吸を整え、咄嗟に“死んだフリ”を決め込んだ。
ぱっと見、ただの転がったキノコ――。
静寂の中、必死に考える。
(新しいスキルがあればな、…)
そのとき、頭の中にあの機械的な声が響いた。
『新スキル獲得――「覚醒胞子(アウェイク・スポア)」』
『吸わせた対象に“夢”を見せ、内部から語りかけ意識を揺り動かす。強い意志を持つ者から順に正気に戻る。』
「……これは、使える。」
こっそり指先に力をためて、「覚醒胞子」を発動。
死体のフリを続けながら、周囲にぷわり、と新しい胞子を放つ。
(クソ……王都全員なんて無理だ。せめて近くの住人だけでも、少しずつ……)
意識を使い、必死に頭の中で住人たちへ語りかける。
突然、あちこちで人々が顔を抑え、呻き始めた。
「あ、あぁ!?お、俺は……何を……?」
「僕……僕は一体、何を……」
「確かあのローブの人に襲われて……」
混乱する人々に、モルグは小声で急かす。
「シー!静かに!君たちは今だけ正気に戻った。全員は後で何とかするから、とにかくバレないように……オレは今から城の中にいる奴を倒してくる!」
「わ、わかった……」 「気をつけて!」
城門を目指し、ボロボロの体で走るモルグ。
「クソ……城まで半壊じゃねーか。あいつ、どこまで滅茶苦茶にしやがって……」
中に入ると、そこには――
「え、マジかっ……」
フロアを埋め尽くすのは、象の胴に獅子の頭、鳥の翼、魚の鱗、あちこちが継ぎはぎだらけの化物――
“合成生物”たちが十数体、うごめいていた。
「全部で10匹くらい……全部でかい……絶対ベース象だろ、これ。」
喉を鳴らし、恐る恐る「睡眠胞子」を噴射。
動きが鈍くなった化物たちが次々にパタリ、と倒れる。
「……よし、でも催眠は長くない、今のうちに――!」
モルグは全力で城の階段を駆け上がった。
二階の大広間。
王様が床に引き倒され、血まみれのままゾルグと数体の合成生物に嘲笑されている。
「もうやめろ!!」
声が響く。ゾルグが冷たく振り向いた。
「ん?お前……まだ死んでいなかったのか。」
ローブの男がフハハ、と嗤う。
「しぶといキノコは、炙られて食われる運命なのさ。ふはは!」
その隣の合成獣もにやりと笑う。
「そいつは随分とうまそうな話だな。」
モルグは息を荒くしつつ、作戦を練る。
(ちっ、どうすればいい。正面からじゃ敵わないし……)
とりあえず、手持ちの胞子スキルを連発。
「毒胞子!眠り胞子!幻覚胞子!……頼む、効いてくれ!」
だが、効果はなし。
ゾルグが肩をすくめて言った。
「お前のスキルは効かないって言ったろ。黙ってやられていろ。《縫合創成(アニマル・スティッチ)》!」
ゾルグが手を振ると、壁や床に新たな“部位”が縫い付けられていく。
猫の尻尾、象の足、人間の黒い目玉、犬の鼻、猿の手……
壁いっぱいの“生きた肉”がドクドク蠢いた。
「は、は、き、気持ち悪……なんなんだよ、こいつ……!」
ゾルグは冷たく嗤う。
「生物は俺の武器に過ぎない。お前だってこのまま“部品”にしてやる。」
(残酷すぎ……どこまで極悪非道なんだよ、こいつ……)
その時、モルグの中に新たな感覚――
『新スキル獲得――「腐敗マイコ・タッチ」』
『手や菌糸で触れた部分から物質を分解・腐敗させる。』
(今はそれどころじゃ……まて、これは……使える!)
指先に意識を集中。菌糸がじわりと伸びる――
小声でつぶやく。
「……これは俺の逆転の一手だ……!」
目の前の巨大な合成生物が迫る。
モルグは咄嗟に足に触れ、力を込める。
「腐れ!」
ズチュ――と音を立てて、象の足がグズグズに崩れ落ちた。
「!? な、なんだと――」
合成生物の巨体がバランスを崩し、他の獣ともつれ転倒。
壁に触れると、縫い付けられた肉も骨もズブズブに溶け始める。
ゾルグが初めて苛立つ声を上げる。
「おのれ、そんなスキルまで……!」
モルグは立ち向かうように宣言した。
「俺はもう怯えない……!仲間も、街も、王様も全部、全部――絶対助けてやる!!」
覚醒した新スキル。腐敗する合成の怪物たち。
そしてゾルグの怒気――
王都を賭けた死闘が、ここから始まった。