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大広間が、濁った怒号に揺れた。
「役立たずどもが……!この“命を与える者”ゾルグ様を、愚弄したなあぁぁぁッ!!」
ゾルグが怒り狂い、ローブを裂いて異形の手足をむき出しにした。
彼が一歩踏み込むたび、床には裂け目ができ、壁の合成肉が爆ぜる。
「殺す……殺す!お前も、王も、住人も全部、全部パーツにしてやるッ!!」
片腕を振り上げると、百足の足と狼の顎が生え、人間の手が延びてモルグを掴もうと迫ってくる。
「くそっ……!これがゾルグの本性かよ!」
モルグは必死にかわし、床を転がり抜けて叫ぶ。
「王様!今のうちに逃げて――!」
ゾルグは人外の咆哮をあげ、天井に腕を伸ばして王様を引きずろうとした。
「させるか――!」
とっさに「腐敗マイコ・タッチ」を発動、触れた触手から菌糸が這い出す。
ゾルグの異形の手先がグズグズと腐り、ちぎれて崩れた。
「ぐァァァ!!な、なにを――クソッ、これごとき、俺の命で……!!」
ゾルグの体が膨張し、より凶悪な姿に変化する。
「お前ももっと“命”を喰らえェェ!!」
地面から無数の合成生物が湧き上がり、王や住人に襲いかかる。
(このままじゃ全員喰われる、踏み潰される……!)
モルグは自身に言い聞かせる。
(ここで恐がっている暇はねぇ……今こそ、俺の決意を見せる時だ!)
モルグは両手・全身から菌糸を一斉に放出した。
「目いっぱいだ……!全力、最大出力――腐れッ!!」
城中に広がる斑点付きの胞子。
「腐敗マイコ・タッチ」が通常の何十倍に拡大し、城壁、床、合成生物、そしてゾルグの全身にまとわりつく。
「な、なにこれ、離せ……やめろ、やめろォォォ!!」
胞子はゾルグの身体の隅々、内側まで浸食していく。
異形の顔が引きつり、皮膚も肉も骨も、見たことのない色でズルズルとドロドロと朽ちていく。
「ふざけるな!俺が、俺がこんなキノコごときに……」
ゾルグの声が徐々にかすれていく。
「命を……命を、もっと与えろォォ……!!」
嘲るように、モルグは叫んだ。
「終わりだ、ゾルグ!お前は俺たちの生命を弄んだ罰を受けろ!!」
巨大な体が床に崩れ落ちる。
その肉も骨も糸も、ゆっくりと腐り朽ち、最期にはただ黒い泥の山となった。
「これで……全部……終わった、のか……?」
王様は呆然と立ち尽くし、正気を取り戻した住人たちの歓声が、涙交じりで聞こえてきた。
モルグは膝をつきながら呟いた。
「……これが、俺の、“命”の戦いだ……」
腐敗の胞子が静かに、空へと溶けていった――。