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空気は、目に見えない。
けれど、支配する者を選ぶ。
僕は、それをずっと見ていた。
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彼女に初めて興味を持ったのは――
茅野瑠海という少女が、
何の音も立てずに、教室から“消えた”ときだった。
人が壊れるときは、だいたい音がする。
怒鳴る、泣く、叫ぶ。
でもあの子は、ただ静かに消えた。
それは、とても美しかった。
「どうして、誰も気づかないんだろう」
そう思った。
そうして、気づいた。
犯人は、“空気”だった。
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片倉結惟。
彼女は、自分で“支配者”を名乗っていたわけじゃない。
けれど、空気が彼女を選んだ。
それが始まりだった。
茅野を消した日、
結惟の目には確かに快楽が宿っていた。
僕はその目を、見逃さなかった。
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それからは、ずっと観察していた。
玲那、村瀬、椎名――
彼女が次々と“空気”を動かし、
言葉を使わず、無表情で、人を壊していく様を。
僕は一度も止めなかった。
一度も混ざらなかった。
ただ、“風が通る道筋”だけを読み取っていた。
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なぜ?
って訊かれると、正直、困る。
感情?
ないとは言わない。
けど、僕は人の感情を壊すプロセスの方が興味深いんだ。
結惟は、壊していく側でありながら、
いつか必ず、“空気に呑まれる”とわかっていた。
そのとき、彼女の中に何が起こるのか――
それが、僕の興味のすべてだった。
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そして、25話。
すべてが終わったとき。
結惟は、空気の中に沈んでいった。
誰にも責められず。
誰にも救われず。
自分の罪も感情も曖昧なまま、
“空気”に呑まれて消えていった。
とても静かに。
まるで――最初の茅野瑠海のように。
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僕は、最後まで見届けた。
そして思った。
この世界でいちばん残酷なのは、
言葉じゃない。
暴力でもない。
ただ静かに流れ続ける、“空気”なんだ。
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そして今。
新しいクラス。
新しい空気。
誰かが、少しずつ浮いていく気配。
また“選ばれそうな誰か”。
僕は笑う。
今度は、どんな風が吹くんだろうね。
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番外編まで御愛読ありがとうございました!
スピンオフ作品 『西園寺、ノートに記す』
でお会いしましょう📕