(魔法の連打、それらすべて下級のものではあるが扱い方が手馴れている。それ以上に魔法の威力も距離も速度もとにかく能力値を底上げする杖を使ってる私らと対等なものを杖なしで使う彼女ら……。こちらの攻撃法は魔法を撃ちこむだけに対して相手は弓と短剣を装備してる。物理的な攻撃法を持ち得ているのが私らの差でありそれが脅威ではある。現にここまで魔法のみの攻防で弓も剣も使っていない。それはつまり彼女らがそれをどう扱うのかが未知数ということ。相手の情報がない以上仕掛けに行くのは愚策……。それは相手も同じだけど私らにはない『物理攻撃』という手札がある。それがあるから彼女らは仕掛けに来ない。どっちが先にしびれを切らすのかという話になってくるが……。)
「……。がぁぁぁぁぁぁぁぁ!!もう我慢できねぇ!私のとっておきでぶっ飛ばしてやる!!」
「落ち着けロム!迂闊に動けば相手の思うつぼだ!!」
「ガキ共ぶっ飛べぇぇぇぇ!!」
そう声を上げた瞬間先ほどまで唱えていた魔法全てを凌駕する威力の風魔法がエメルとラルド、二人を襲う。
「この規模の魔法って使用していいのお姉ちゃん?」
「ダメに決まってるでしょ!?この威力は里にも影響が……。」
「……。安心して戦いなさい二人とも。」
「大妖精様!?」
「この場は私が用意したの。”子供たち”でも全力で遊べるようにね。だからあなたたちも里内最強を目指して思いっきり**遊びなさい**」
「……。うん!分かった大妖精様!!」
「なっ!?おい!!ラルド!?対抗して同じ規模の魔法を撃てば私も……。」
「いっくよ~!」
対抗して放ったその魔法は水魔法で襲い来る風をその水が飲みこんで弾ける。飛び散る水滴が彼女らに降り注ぎ瞬間的に雨が出来上がりまた晴れる。
「ばっ……。ばかな!?私の渾身の風魔法がガキンチョなんかに!!?」
(まさかこれほどまでに威力に差が生まれてるとは……。だが逆にこれは好都合かもしれない。威力にこうも差が生まれては絶望するかもしれない。しかし、妖精族の特性を理解していればこれが何を指すのかが分かる。妖精族は大人になった時魔力量がみなほとんど同じになる。威力こそ本人の才能や努力量によって異なるが、魔力量は基本努力や才能に左右されない。大昔子供の時点で大人と変わりないほどの魔力量と威力を有している天才と称されるほどの妖精がいたらしいけど、そんな子は伝説上の子だと私は思っている。つまりはそんなイレギュラーは起きない。あの子たちは威力はあれど魔力量は私らよりも低い。今と同じような規模感の魔法を放つならロムは三発、彼女は多くても二発だろう。魔法による有利さは揺るがない。あとこちらが考えるべきなのはもう一人の子の対処。恐らくあの子は頭が切れる。多分戦況を俯瞰して見れるタイプだろうね。それなのに実力も申し分ないとは恐ろしいことこの上ない。彼女はどうやって攻略してやろうかしら?)
「まったく馬鹿妹が……何しやがる。」
「えへへ。全力でやっていいって大妖精様が話してたから」
「だとしても加減をしろ!私も巻き込まれるところだったんだぞ?」
「それはごめんねぇ?」
「だが、おかげで片方の能力値はなんとなく把握できた。」
「ほんとぉ!?」
「そっちの相手を任せてもいいか?」
「いいよお姉ちゃん。任せてそのまま負かせてあげるから。」
「……あっそ。それじゃあ私集中するから。」
ラルドが相手してるのはロムという子で私が相手しようとしてるのはハウという子。こっちの子はちゃんと分析とかもするみたいで戦闘経験が豊富なのが見て取れる。戦闘力で言えば多分ロムという子の方が優れているだろうが、からめ手を使ってくるだろうハウの方が厄介ではある。一応こちらの優位性を上げるなら剣と弓が扱えるという点だ。彼女らは魔法に頼りっきりだから魔力が尽きれば戦闘は継続はできない。つまりはガス欠を狙うのも一つの策ではあるが、持久戦は私らの方が分が悪い。魔力量に差が生まれているからだ。ではどのようにして勝つか?選択肢は二つ……真っ向から戦い力で押し通るか相手に降参と言わせるの二択となる。前者は行けなくはないだろうがリスクは高い。威力は拮抗してるため戦い方次第でどちらにでも転ぶ。後者は前者以上にリスクが高いがより実践向きな戦い方だ。これが決まれば本番でも決まる確率が高まるためやっておきたいが、しくじればそれまで……。後悔しない選択をとるなら……。
「それじゃあこっちも始めようか?ハウ……。だっけか?」
「えぇ……。とっとと終わらせてあげるエメルちゃん。」
ハウの各属性による魔法の連打。一つ一つはそんなに痛くはないが当たればそこからじわじわと削られるだろう。正直こちらも魔法でけん制してもいいが、魔力量的にジリ貧になるなら避けることに徹しつつ距離を詰める。そして剣を使えばそれを警戒するはずだ。伊達に一人遊びをしてたわけじゃない。我流でもここの連中には効果的だ。見せてやる私らを下に見た大人たちめ!
「その程度の魔法で私は止まらない!」
木製の剣に強化系統の魔法をコーティングし耐久性を底上げし飛んでくる魔法を弾いて突き進む。
(真っ向から来るつもり!?あの剣で殴られたらさすがに痛いじゃすまないよね……。とはいってもこの杖で防げるとは思わない……。ならあの剣に対抗するには……。)
「妖精族は魔法に秀でてるからそれだけに頼ると思ってるなら勘違いもいいところだ!あんたが剣を使うように私も魔法以外の対抗法は持ってる!」
自身に強化系の魔法を付与し、振り落とされるその剣に蹴りで相殺をする。
「なっ!?」
「ごめんなさいね。私足癖が悪いみたいでさ。」
コイツ……私と同じで奥の手は隠すタイプか。なら、私も隠してはいられない……。けど、これを実行するにはラルドの協力が必要不可欠。何かしら隙が生じれば……。
「こいつで燃えカスになるがいいクソガキがぁぁぁぁ!!」
「熱いのは嫌だから冷やしちゃうもんね!!」
ラルドとロムが再び巨大な魔法を形成しその魔法がぶつかり合う。瞬間燃える炎が極度の温度変化によって爆発と共に煙が上がり会場が煙に包まれる。
「ごほっごほっ……。ロム!!?あんたなんて魔法を使ってるの!?」
「ここまでしねぇとあのガキは魔力を温存するんだぞ!?短期決戦でこっちを片付けて二対一でもう一方を片付けた方が楽だろうが!」
「そうかもしれないけどもう少し規模感というのを考えなさい!それにこんな煙が上がるような状態を作ったらいつ奇襲されるか分からないでしょうに!?」
「ちっ……。ハウねぇは慎重すぎるんだよ。」
「普段なら別にここまでの文句は言わないわよ……。でも今回の相手は馬鹿な動物や魔物と違う。油断すれば簡単に戦況がひっくり返るの。それを理解して……。」
偶然ではあるがこれは好都合も知れない……。
「……。安心しなお二人さん。私らも奇襲をしようとは考えてないからな。」
「はぁ?」
「みんなが見てる場で、見える状態であんたらをぶっ倒したいんだ。その無様な姿をみんなに見てもらいたいからね。」
「あのガキ……。」
「挑発に乗らないのロム。それがあなたの悪い癖よ!」
ハウってやつは冷静だがもう遅い。この煙を出して時点で私のやりたいことをやらせてもらおう。
「この煙が消えたらすぐに襲うから構えな。魔法でも体術でもいいからな?」
「……。話してた例の作戦を実行する。行けるか?」
「当たり前でしょ?こんなところでやられるなんて私も嫌だもん!」
徐々に煙が消えていき二人のシルエットが見えたとき片方が腰に当てた短剣を振るい煙を払う。両者ともに傷は見えないが規模が規模なために汚れていた。そして宣言通り煙が晴れたとき両者ともに襲い来る。短剣を持った少女はハウを襲い、弓を構えた少女はロムの頭部を狙い弓を射る。
「こいつら……!?」
(二人もどうやら短期決戦で終わらせる気なのね。エメルちゃんの短剣はまだ様子を見てるようなものが多いけど彼女だけ大規模魔法を放っていないから魔力量は私と同格か少し下くらい。つまり隙を見て放ってくる可能性が高い。だからこの攻撃も様子を見てるんだ。なら私も身体強化をさらに強力なものにしないと……。)
思案するハウに容赦なく攻撃を続け割り込める隙を見つけては魔法を放ち、相手に攻撃をさせない。それを悟ってかハウも応戦するための自身にさらに負荷のかかる強化魔法をかけて強引にその連打を止める。
「あなたたち姉妹を下に見たのは詫びるわ……。代わりに私も今持てる最大限をあなたたちにぶつけてあげる!覚悟しなさい!」
……。結果として私達ハウとロムは敗れた。こちらは持てるすべてを出し尽くしたのに相手は余力を残しての勝利となった。悔しいけども二人の実力は本物だった。子供だからと下に見たことが、その時点で私らに勝利はなかったみたいだ。この試合を見てから他の大人たちも気を引き締めて里内最強を目指したが、あの子たちの前にみんなやられた。大人たちは口をそろえて調子が悪かったと捨て台詞を放ってどこかに消えていたが彼らもきっと理解しているだろう。彼女らは間違いなく最強の名を冠してもいいのだと。現状あの人間に対抗できるのは二人なんだと分からされた。
私らも言ってしまえばまだ子供だ。けどもそれでも周りの大人たちは『大人』として迎え入れてくれた。だからか私やロムもその大人に感化されて二人を下に見てしまった。こうして敗北して気づかされた。過保護が絶対に子の為になるわけじゃない。みんな仲良く一位が幸せじゃない。年の近い人物に限らず他者と競争することが子の為の刺激になり、成長につながるんだと。私は別に外の人間が嫌いなわけじゃない。関心はない、なかったと思っていたけどももしかすると本当はあったのかもしれない。『この里を変えてほしい』そういった彼女らが抱えているであろう願いを私やロム……。そして声をあげれなかった他の子どもたちも……。三日後の対戦どう転ぶかは分からないけれど、それでも私は願ってる。その時にもたらした結果がいい方向に転んでくれることを……。
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