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幼い頃から、スポットライトの真ん中で誰かを笑顔にすることを夢見ていた_
鏡を相手に独り、ダンスを踊る。周囲に同じ夢を持つ友はおらず、練習場所はいつも、自宅の居間 だった。
『 いつか、ここじゃないどこかに 』
その一心で今日もまた、踊り続けた。
. . .
オーディション当日
事務所に入ったものの、そこには自分より背が高く、華やかな少年たちで溢れている。 今までとは 比べ物にならないような緊張感。挨拶の声さえ、この広い空間に吸い込まれていく。 圧倒的な美と才能の暴力。 でも、ただ綺麗なだけでは残れない。 僕は深呼吸をして、冷え切った指先を握りしめた。 心臓がうるさいくらいになっている。 この圧倒的な力に僕は自分自身の『 熱 』 で立ち向かうしかない。
「 …… 次の方、どうぞ 」
無機質な声が、張り詰めた空気を切り裂く。心臓の音が耳元で跳ねた。
僕はもう一度、深く息を吸 い込む。隣に並ぶ、彫刻のように美しい少年たちの視線を追い風に変えて、一歩を踏み出す。
『 はい 』
音楽が止まった。
静まり返ったスタジオに、自分の呼吸の音だけが響いている。 鏡の前で、何千回、何万回と繰り返 してきたステップ。家で積み上げてきた孤独な時間。 その全てを乗せて、『 僕 』という存在を刻みつけた。
審査員の顔は見れない。ただ、床だけを見つめていた。
『 …… ありがとうございました 』
一礼して、僕はステージを降りた。不思議と、 さっきまでの緊張は消え失せ、あんなに冷え切って いた指先は、熱を帯びてジンジンと疼いていた。
控室に戻る廊下ですれ違う少年たちは、相変わらず眩しい。けれど、もう後戻りはできない。僕 は、僕にできるすべてをこの空間に置いてきた。
その数日後。
僕のスマートフォンが、見たことのない番号からの着信を告げた。
震える指で、電話に出た。受話器越しに聞こえてきたのは、あの時と同じ、無機質で、でもどこか 温かい声だった。
「 _おめでとうございます。合格です 」
頭が真っ白になった。
鏡に向かって独り踊り明かした日々が、頭の中を駆け巡っていく。あのダンスに込めた熱意は、間 違いなく審査員に伝わったんだ。
僕は今、ようやく『 ここじゃないどこか 』への入り口に立った。