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#シリアス
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「パパ、文化祭に来て!私のクラス、お化け屋敷をやるの。…パパ、絶対に入ってね?」
ひまりのその一言で、事務所には再び緊張が走った。
林間学校で「物理的除霊」を完遂した俺にとって、お化け屋敷は因縁の場所や。
「……和幸。文化祭の警備計画を練り直せ。ターゲットは『お化け屋敷』。いかなる恐怖演出にも動じず、父親としての威厳を保つためのシミュレーションを開始する」
「兄貴、中学生の手作りですよ? 段ボールとコンニャクの世界っす。……あ、でも兄貴、実はお化け苦手っすよね?」
「……やかましい。これは『胆力』の修行や」
◆◇◆◇
当日
俺は「できるだけ存在感を消した一般保護者」を装うため、グレーのスラックスにポロシャツ
そして丸眼鏡という「週末の市役所職員」スタイルで校門を潜った。
だが、後ろに続く和幸、長治ら五人の若衆が、どう見ても「要人警護のSP」にしか見えん。
「……和幸、離れろと言うたやろ」
「兄貴、反射的に背後を守っちゃうんですよ、職業病で」
ひまりのクラスの出し物「呪われた診察室」の前に到着した。
「あ! パパ、来た! ちょうど今、私が驚かす担当なんだよ。頑張るからね!」
ひまりがナース服に血糊をつけた格好で、嬉しそうに暗幕の中に消えていった。
……あんな可愛いお化けがおるか。
俺は悶えながら、和幸を連れて入場した。
「ヒタヒタ……」という足音と共に、シーツを被ったガキが飛び出してきた。
俺は無表情で眼鏡をクイと押し上げ
「……足元のガムテープ、剥がれとるぞ」と指摘。
ガキは「あ、すいません……」と素に戻りおった。
上から吊るされた冷たいコンニャクが俺の頬を撫でた瞬間
俺の右拳が反射的に『正拳突き』の構えに入った
が、和幸が必死に俺の腕を羽交い締めにし、コンニャクの破壊を食い止めた。
そして最深部。
血まみれの診察台から、ひまりが「ウラメシヤー!」と飛び出してきた。
「……っ!!」
俺は驚きを通り越し、あまりの可愛さに、その場で膝をついた。
「……ひまり。…お前、なんて……なんて恐ろしい…!!いや、なんて素晴らしい演技や…!和幸、お捻りや! 百万持ってこい!」
「兄貴、学校で現金をばら撒かないでくださいッ! 通報されますよ!」
ひまりは「パパ、大げさだよー!」と笑いながら、俺の肩を叩いた。
お化け屋敷を出た後、俺たちはクラスの模擬店でひまりが作った焼きそばを食った。
「パパ、楽しかった?」
「……ああ。…この世で一番、心臓に悪いお化け屋敷やったわ」
俺はひまりの笑顔を見ながら、ふと思った。
かつては「恐怖」で人を支配してきたワシが
今は「恐怖」をエンターテインメントとして楽しむ娘の姿を微笑ましく見とる。
「……和幸。…来年の事務所の新年会は、お化け屋敷にするぞ」
「めっちゃいいっすね!」
文化祭の夕暮れ
ひまりの清楚なナース姿の写真を、俺は「最重要機密」としてスマホの待受に設定した。
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