コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
夕暮れの駅前。
透は人の姿で、ベンチに座っていた。
もう無理に化ける必要はない。
今日も、人として立っている。
「それ、無理してない?」
不意に声がかかる。
振り向くと、年齢も性別も定まらない人物が立っていた。
服装も、雰囲気も、どこか流動的で、透と同じ匂いを感じる。
「匂いが似てたんだ」
「形を変えられる匂い」
透はすぐに気づいた。
——自分と同じように、能力を持つ人だ。
「……俺、犬でした」
「俺は水に化けられる」
その人はにっこり笑い、風が吹く駅前を見つめる。
静かだが、心強い空気が流れた。
透は、自分の胸の奥を見つめる。
ユイはいない。
でも、彼女が遺した力と記憶が、自分を支えている。
「逃げなくてもいい」
——そう小さく呟く。
化け犬は足元で静かに座っている。
影は、吠えず、ただ傍にいる。
透はそれに気づき、軽く微笑んだ。
そして歩き出す。
人として、
選んだ姿のままで。
> 何やってもうまくいかない
それでも
人で生きていける場所は、確かにある。
影はもう、吠えない。
隣を歩くのは、ユイの残した存在と、新たに出会った同じ匂いの誰か。
ーー終わり