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夜明けの光が、静かに世界を包んでいた。
破壊された神殿は草花に覆われ、風が優しく歌う。
もう神々の怒号も、戦の音もない。
ただ、“生きる”という息づかいだけがそこにあった。
黎――かつて人だった少女は、今や神となった。
けれどその目は、人の時のままに優しい。
青龍が彼女の隣に立ち、空を見上げる。
「……世界は、お前に微笑んでいる。」
「ううん。みんなが優しい世界を選んだの。私はただ――その手を借りただけ。」
黎の声は風に溶け、花々が揺れる。
朱雀が枝に腰かけ、飄々と笑った。
「相変わらず真面目だなぁ。けど、悪くねぇ。
争いより、恋の炎のほうがずっと綺麗だ。」
白虎は無言で彼女の背後に立ち、そっと羽織をかけた。
「寒いだろ。神だって、風くらいは感じるはずだ。」
その優しさに、黎は微笑んだ。
玄武は水辺に立ち、杖を静かに大地に突く。
「時間の流れも、ようやく穏やかに戻った。
……人も、神も、同じ時を生きる。そんな時代が来るとはな。」
黎は四人を見渡した。
かつて、敵として、味方として、そして“想い人”として交わった四神。
彼らはそれぞれの輝きを保ちながら、今はただ穏やかに彼女の隣にいる。
やがて黎は、丘の上へ歩み出た。
そこは、彼女が初めて青龍と出会った森の先にある高台。
朝日が昇り、雲の海が金色に染まる。
「……綺麗だね。」
黎の言葉に、青龍が静かに頷いた。
「お前が創った世界だ。黎。お前が望んだ“明日”だ。」
彼女は空を見上げながら、そっと微笑む。
「青龍。私ね……神になっても、あなたに恋してる。」
「それは罪ではないのか?」
「罪なら、私が抱いていく。愛は、いつだって誰かを救うから。」
青龍の手が、彼女の頬を包む。
その目は、いつかの戦場で見せたあの切ない光を宿していた。
「……永遠は望まぬ。ただ、今を生きたい。
お前の隣で、息をしていたい。」
黎は頷き、彼の胸に額を預けた。
「約束しよう。
神でも、人でもなく、ただ“私たち”として、生きよう。」
二人を包む風が、柔らかく舞い上がる。
光が差し込み、青龍の蒼が黎の髪を照らした。
四神がその光景を見守り、静かに膝を折る。
朱雀が呟く。
「……結局、愛が世界を創るんだな。」
白虎が笑う。
「戦うより、抱きしめる方がずっと強い。」
玄武が頷く。
「なら、この時代を護ろう。“黎明”の名の下に。」
黎は振り返り、彼らに微笑みを返した。
「ありがとう、みんな。
これからも――一緒に。」
――それから、長い時が流れた。
神と人は手を取り合い、四神はそれぞれの地を護り、
黎は静かに世界の均衡を見守った。
誰も知らない、けれど確かにあった物語。
それは“愛”がこの世界を目覚めさせた、最初の奇跡。
黎と青龍は、今もどこかで夜明けを見ている。
手を繋ぎながら、ただ静かに、優しく。
――そして世界は、今日も恋をしている。