テラーノベル
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主役 : 元貴
それは本当に偶然だった。フェス終わり。
機材を片付けて、外に出た瞬間。
「……あれ? 元貴じゃん?」
聞き覚えのある声。
振り向いた瞬間、呼吸が止まる。
中学の同級生だった。
あのグループの中心にいたやつ。
笑い方も 変わってない。
背中が一瞬で冷たくなる。
「久しぶり〜。有名人じゃん」
軽い口調。
でも目が笑ってない。
若井と涼ちゃんは
少し離れたところで スタッフと話してる。
だから、僕とこいつに気付いてない。
「バンド売れて調子乗ってんの?」
何も変わってない。
あの頃と同じ圧。
「…別に」
喉が乾く。
昔みたいに、囲まれはしない。
でも視線が刺さる。
「俺らの前じゃ地味だったのにな」
笑われて、忘れていた 記憶が蘇る。
廊下で肩をぶつけられたこと。
机に落書きされたこと。
無視された日々。
僕は何も言わなかった。
言えなかった。
「……っ、じゃあ」
逃げるようにその場を離れる。
でも、それだけでは終わらなかったんだ。
数日後、SNSに匿名アカウント。
「昔いじめられて泣いてたくせに」
「売れて勘違いしてる」
明らかに知ってる人間の書き方。
胸がざわつく。
消そうとしても目に入る。
別のライブ会場の裏口でも、また会う。
「お前、昔のことバラされたくなかったらさ」
───脅し。
冗談みたいな顔で。
手は震えてるのに、表情は固まる。
───言えない。
若井と涼ちゃんに。
知られたくない。
情けない過去、弱かった自分。
だから黙る。
笑う。
平気なふりをする。
でも、眠れなくなって 食欲も落ちる。
リハも集中できない。
そんな僕を、涼ちゃんが何度も見る。
「元貴、最近大丈夫?」
「ん?うん、大丈夫」
反射みたいに出る言葉。
若井は何も聞かない。
でも視線が鋭い。
ある日のスタジオで、 突然音が聞こえなくなった。
───フラッシュバック。
廊下の笑い声。
自分の机。
消えたいって思ったあの日。
息が荒くなる。
「元貴?」
涼ちゃんの声。
気付いたら座り込んでた。
若井が駆け寄る。
「……どうした?」
声が低い。
僕は首を振る。
「、なんでもない」
でも涙が勝手に落ちる。
止まらない。
涼ちゃんがしゃがんで、目を合わせる。
「なんでもなくない」
優しい声。
それが余計に苦しい。
隠してきたのに、 崩れちゃう。
若井がはっきり言った。
「最近おかしい。何があった?」
逃げ場がない。
でも、もう限界。
唇が震える。
「……中学のとき、」
二人が静かに聞く。
「いじめられてた」
空気が止まる。
初めて言った。
誰にも言わなかったこと。
「地味で、暗くて。ずっと無視されて、からかわれて」
喉が締まる。
「この前、そいつに会った。」
涼ちゃんの手の力が強くなる。
若井の表情が消える。
「また、言われちゃった、」
情けない。
涙でぐちゃぐちゃ。
「売れて調子乗るなって」
声が震える。
「怖くて、何も言えなくて、ッ……」
沈黙。
怒鳴られるかもって一瞬思う。
でも、若井が低く言う。
「なんで言わなかったの」
怒りじゃない。
悔しさ。
涼ちゃんの目が潤んでる。
「……一人で抱えないでよ、」
胸が痛い。
「き、きらわれるかと思ったの、」
本音がこぼれる。
「弱いし、情けないし……」
その瞬間、若井が僕の顔を上げさせる。
「誰が?」
低い声。
涼ちゃんも言う。
「元貴の過去で、僕たちの気持ちは変わらない」
若井の目が真っ直ぐ。
「今ここにいる元貴が俺達の全部だよ」
涼ちゃんが抱きしめてくれた。
「よく一人で耐えたね」
その言葉で、完全に崩れる。
「ッ、!っ、ぅう……、 怖かった、ぁ、ッ 」
子どもみたいな声。
若井が後ろから抱きしめる。
「今は俺たちがいる」
涼ちゃんも頷く。
「もう一人にしないから」
胸の奥にあった冷たい塊が、少し溶ける。
過去は消えない。
でも、 今は違う。
三人でいる。
それだけで、昔の自分が少し救われた気がした。
コメント
1件
天才ですか...?