日帝とナチスってよく考えれば国じゃないよね、って話です。国獣、国鳥モチーフにしてます。全員羽やら尻尾やらが生えてるイメージ。完全に獣ではない。
過保護な狼のイタ王と居候してる猫の日帝と拾われ犬(?)のナチス。恋人同士などではない。
ナチ虐回想描写などがあります、苦手な方は回れ右。センシティブはおそらくない。
特定の国への反感及び侮辱、犯罪や虐殺賛美による戦争の誘発、反社会的思想を促す意図等は一切御座いません。又、本小説は実在する国や出来事との関わりも御座いません。
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拝啓
初冬ノ折、日毎寒気募ル此ノ頃、御尊父様ノ御壮健ヲ伏シテ願ヒ奉リ候。然レバ、陳者、予テ御厄介ヲ蒙リ候伊太利王國ノ元ヘ、新タニ「我生命ト同様ノ生物」ガ参ジ候事ヲ御報告仕リ候。此奴、猜疑ノ念深ク、他国ニオヒテ我ニ吠ヱ、且ツ震ヱ泣キ居リ候。人ノ手ニテ創ラレシ生キ物ニシテ、甚ダ不出来ニ近キ様子ニテ興趣深ク存ジ候。
是非一度御足労賜リ、御覧候へバ幸甚ニ存ジ奉リ候。
敬具
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動物が動物を拾ってきた。
ある日、それは日帝が口に出した最初の一言だった。
朝から会議のイタリア王国が動物を保護して帰ってくるとはこれ如何に、首を傾げれば彼は困ったように笑う。
「さぼっタか」
「違うよ。会議の結果だよ」
イタリア王国は優しい手つきで抱えていた動物を床に下ろす。黒と赤の塊を見れば、酷く傷んだ黒い制服と軍帽を纏い、国らしく、であるが随分と見窄らしい体つきをしていて、可哀想なことに小刻みに震えてさめざめと泣くが故に、彼はきっと酷い飼い殺しの日々を送っていたに違いない、と日帝は頷いた。
「じョうがうツった、とヰうこトか」
日帝は震える生き物から錆び付いた軍帽を外した。
頭から生えた耳は後ろに倒れ、どうやら先程まで見えなかった尻尾は彼の太腿の間に隠れているようだった。
彼はジャーマン・シェパードのようだ。
「そうなるかな。でもあまりに震えてたら可哀想に見えるだろう」
イタリア王国がそっと頭を撫でようと手を添える──途端、犬は顔を上げ、琥珀色の瞳が揺らぎ、瞬く間にイタリア王国の手に噛み付く。痛みに吃驚したイタリア王国が手を引くや否や、唸り声をあげながら玄関まで後退りし、牙を剥いて吠え出す始末。
あちゃあ、とあくまでものんびりとした声で血の滲む手には目もくれず、懲りもせず近付こうとするイタリア王国を日帝が止めた。
「やメタほうガいヰ、こワがッテゐる。かワヰそウダ」
「やっぱり可哀想に見えるでしょ?」
「アァ、オまえノセいでナ」
悲しいなあ、とイタリア王国が呟く。 然程気にしていないようだった。
「だヰイち、おまヱはシぜんノレイギがなッてナイ。メせんをアワセろ、デかブツめ。ハナシはソれからダ」
と日帝が窘めれば、退けと言わんばかりにイタリア王国を後ろへ追いやった。
「グルルルル…ッ、ガゥ”ッ!!ギャン”ギャン”ギャン”ッ”!!!」
近寄るな、と犬は鳴いた。酷く嗄れた痛ましい鳴き声だった。
「おォ、ほラ……ヰいコだ。よシヨし、……にゃァん」
犬の吠えを宥める形で日帝は鳴く。優しく、追い詰めず、彼等にしか分からない言葉であやす。刹那、犬の逆立っていた毛並みが落ち着き、暫くして体の強ばりも心做しか弱くなった気がした。
「ギャン”ギャン……ッ、グルル…ッ、ギャゥッ……」
「ミィ、ナぁぅ……みゃぁ。……だ、そうダぞ。ヰタリァおウこく」
「いやあ、僕にはさっぱり分からなんだ。翻訳しておくれよ」
「……仕方アるマイ」
日帝はその後も聞き手として犬を宥め、次第に犬が疲労困憊から気絶したように眠るまで会話は続いた。
──曰く、彼は人が怖いと云う。
人は彼に痛くて辛いことをするらしい。どんなこと、と問えば彼は目を伏せて俯くばかりだったので詮索はやめた。傷を抉る畜生な趣味など日帝には無かった。
ただ、彼は、人は好きだとも云う。
人は好きだ。怖いし痛いこともしてくるけれど自分を愛してくれるのは人しかおらず、自然に調和することができない彼は日帝と同じく人工産物で、彼の世話をしてくれる者も正しく人だけだった。たとえそれが義務的であり生命の最低限の維持行為だったとしても、彼は人を愛して、そして人は自分を愛してくれていると健気に信じ、忠誠に生きている。
「カイらイ…とヰうヤつカ」
すやすやと眠る犬の目元は隈で真っ黒な上に泣き腫れていて、酷く痛々しい色を残す。
とりあえずこの見窄らしい姿で地べたに寝かせてやるのもなんだ、と思ったイタリア王国は彼を浴室へ運び、血と煤で汚れた服を脱がせて洗う。秘めていた肌は醜いほど傷と痣に荒らされ、申し訳程度に胸から背中へと巻かれていた包帯はずっと替えられておらず、血の滲んだ部分は凝血して貼り付いていた。
皮膚ごと剥ぎ取らないように水で凝血をふやけさせながら慎重に包帯を外す。見れば、黒く、芯が通っていて幹のようなものが微かだが皮膚から覗いている。
「…ねえ、これってさ」
「ツばさのアト、そしてケズらレたコンセキといオうカ」
酷いものだ。と、どちらともなく言う。
これが人の所業、生命への冒涜。彼には翼があった。彼は元々鳥だったのかもしれない。鷲、鷹、或いは烏や鳩、空を羽ばたく為の翼は無様にも根から削り取られ、代わりに犬の耳と尻尾が生えている。
作り替えられたのだろう。
誰かの不満か、願望か、将又気まぐれか、彼は人の手に作られ人の手によって皮肉にも犬になった。
「そレデ、ドうすルんダ」
日帝にそう尋ねられたイタリア王国は、微温湯で湿った犬の頭を優しく撫でた。今度は噛み付かれなかった。
きっとさっき噛み付いてきたのは防御反応で、自分を守るための行動。警戒心の強いジャーマン・シェパードが吠えるのは何ら不思議なことではなかったが、あれほど鬼気迫った素振りを見せるのはそもそも動物として中々ありえない。
色々と考えながら頭を撫で続けると、ごろごろ、と微かに犬の喉が鳴った。
それを聞いて、諸々を察したイタリア王国は神妙な顔つきで日帝に問うた。
「……飼い主の元へ返すのは薄情だと思うだろう?」
「ミなマデヰうナ……かレがソレでいヰなラ、すキにシロ」
日帝は吃驚もせず、半分肯定し半分呆れたように応えを返す。あくまでも最終判断の権はこの犬にある、と言った。
「任せてよ。意思疎通が図れるようになるまでなら文句は無いさ」
「……フン、つマらナイ洒落ダ」
「え、そうかなあ」
イタリア王国はなんでもないように笑う。そこから他愛も無い会話の中、いつしか犬は目を覚ましていたが、身ぐるみを剥がされた状態だったので比較的大人しくしていたものの、瞳には未だ怯えと警戒心が滾っていた。
何故彼が泣いているのか、何故こんなにも身体中甚振られているのかは知らないが、唯一わかるのは暖かい愛情に包まれて尚怯える犬──ナチスの深い傷が治るまでの時間は大層なものということだった。
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