TellerNovel

テラーノベル

アプリでサクサク楽しめる

テラーノベル(Teller Novel)

タイトル、作家名、タグで検索

ストーリーを書く

テラーノベルの小説コンテスト 第4回テノコン 2025年1月10日〜3月31日まで
シェアするシェアする
報告する





駆け乗った私の真後ろで、電車のドアが閉まった。



必死に走ったおかげで、なんとか乗ろうとしていた電車に滑り込めたけど、快速電車は満員で、私たちはドアのすぐ傍で動くこともままならない。



向いに立つレイが、私の後ろのドアに手をつくしかない状態だ。



(近い……)



うつむいているけど、電車が揺れれば触れてしまいそうな距離に、息が詰まる。



次ドアが開くのは15分後。



それまでこの体勢でいるなんて、気まずすぎだ。



石のように固まる私の耳に、しばらくしてレイの声が聞こえた。



『……それで、どうして俺に遊園地についてきてほしいの?』



その問いに思わず顔をあげてしまった。



だけど彼の顔がすぐそこで、私はあわてて視線を落とす。






(どうしよう……)



正直に話せば、バカにされるのは目に見えている。



だけど今日の目的は「ダブルデート」だ。



杏と佐藤くんに「私は平気」だと安心してもらわなきゃいけないのに、本当はレイと仲が悪いだなんて、絶対に知られちゃいけない。



私は迷った挙句、俯いたままわけを話し始めた。



だけど少し話したところで、レイに『ミオ』と言葉を遮られる。



『ミオ、それじゃ聞こえない』



たしかに、俯いてぼそぼそ話をされても聞き取りづらいだろう。



仕方なく顔をあげれば、その瞬間どこからか女の子の嬌声が聞こえた。



たぶんレイを見た女の子の声だ。



反射的に顔を伏せれば、レイは『ミオ』と少し強い口調で言う。



(もう、仕方ないじゃない……)



自分が目立つ外国人だってこと、ちょっとは自覚してよ。



いや、女をキスで黙らせようとするくらいだから、目立つ自覚はある気もする。



(どちらにせよ、本当タチが悪いんだから)



内心文句を言いつつも、協力してもらわないと困るのは私。



羞恥を堪えて、それから次の停車駅に着くまでの間、私はレイの喉あたりを見ながら話を続けた。








しばらくして車内にアナウンスが流れると、私はほっとして視線を動かした。



ドアが開き、乗客がどんどんホームへ降りていく。



立っているのが私たちだけになり、私はよろめくように近くのシートに腰を下ろした。



『つまり……。


 ミオはこの間の男と、自分の親友との仲を取り持ちたいってこと?』



レイはとなりに座り、私を横目に見る。



そちらを見返さず頷いた時、あからさまなため息と、それを追って独り言のような声が聞こえた。



『……バカだな』



(やっぱり……)



言われるだろうと予測してたけど、本当に言われれば気が滅入ってくる。



それでも私は、言い返したいのを堪えて彼を見上げた。



『……だから、レイに協力してほしいの』



レイは私を見返しても、頷くことも首を横に振ることもしなかった。



返事のかわりにもう一度ため息をつき、ふいと窓の向こうに目を逸らす。






(わかってくれたのかな……)



不安だけど、そもそもレイは二重人格だ。



私以外の人には愛想がいいから、なんとかなる気もする。



それからしばらくお互い無言で過ごした。



だけどふと杏に「連れて行くのは男の子」だと言ったことを思い出す。



(「男の子」には……見えないよね……)



レイは「男の子」というより「男の人」だ。



「シェア・ビー」のゲスト情報では、たしか22歳。



私は彼のことを、アメリカ人だってことと、年齢以外はなにも知らない。



『……ねぇ。 レイってなにしてる人なの?


 学生? それとも働いている人?』



私の問いに、レイは間を置いて『大学生』と答えた。



『え、大学生だったんだ! 今学校は?』



『休み』



『休み?』



『春学期が終わったから。 秋学期は9月から』



『ふーん……。 そうなんだ』



そう言ってみたものの、アメリカの大学のことはわからないから、正直ピンとこない。



けどきっと、今は夏休みなんだろうと自分なりに納得した時、遊園地のある駅に着いた。















シェア・ビー ~好きになんてならない~

作品ページ作品ページ
次の話を読む

この作品はいかがでしたか?

0

コメント

0

👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!

チャット小説はテラーノベルアプリをインストール
テラーノベルのスクリーンショット
テラーノベル

電車の中でも寝る前のベッドの中でもサクサク快適に。
もっと読みたい!がどんどんみつかる。
「読んで」「書いて」毎日が楽しくなる小説アプリをダウンロードしよう。

Apple StoreGoogle Play Store
本棚

ホーム

本棚

検索

ストーリーを書く
本棚

通知

本棚

本棚