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思わずバッと振り返ったら、またしても瑠璃香の隣の隣の席に座るスーツ姿のイケメンと目が合ってしまう。 そうして、涼しい顔をしてクスリと笑われてしまった。

(なっ! なんなんだ、あの男ぉぉぉ!)

ただ単に晴永の動向が分かりやす過ぎて笑われただけなのだが、晴永としては面白くない。

グイッと手にしたジントニックを飲み干して立ちあがろうとした……のだが――。


「なんか、そんな上司を見てたりゃ、ちょっとらけ心がかりゅくなったんれすよね」

瑠璃香が手にしたグラスの氷が、カラリと音を立てた。

「……不思議れすよねー。わらしとその上司は犬猿の仲にゃのに」


言われた瞬間、晴永の胸がキュン♥と乙女チックに弾んだ。

(小笹ぁぁぁ)

そうして同時に思う。

(俺とお前が犬猿の仲なのは、名前に犬と猿が入ってるからってだけだろ? 別に俺はお前を天敵だとは思ってねぇぞ?)

それよりむしろ、めちゃくちゃお近づきになりたい!


「きっと小笹さんはその上司さんが嫌いじゃないんじゃないですか?」

柔らかなマスターの声が響いてきて、晴永は思わずマスターをじっと見つめてしまい、彼と目が合った。

ん? と小首を傾げられて、なんでもないとフルフルと首を横に振った晴永だったのだが……。瑠璃香の隣の隣の席のスーツ男が肩を震わせているのを見ると、絶対笑われていると確信した。


「……んー。しょんなことはないと思うんれしゅ。らって課長、鬼れしゅもん。……私、結婚願望ちゅよいし、しゅっごく憧れてますけろ、結婚しゅるなら課長かちょぉみらいなタイプは絶対じぇったいしゃけましゅ。どうせにゃらマスタぁみたいに優しそうなハンサムさんがいいれす」


瑠璃香が言ったと同時。チラリと晴永の方へ流し目を送ったスーツ姿の男が、「明智あけちも悪くないですが、僕も結構おすすめですよ?」といきなり話に入った。

織田おりた!」

どうやらマスターは明智あけちという名で、織田おりたと呼ばれたスーツ男と、それなりに仲が良いらしい。

今の一瞬でそのことに気づいた晴永だったけれど、そんなことはどうでもいい。

スッと立ち上がって一つ席を詰めた織田ハンサムスーツに、晴永はガタンッと椅子を蹴倒さんばかりの勢いで近付いた。


「俺の大切な部下に変なちょっかいをかけないでもらえますか?」

晴永がそう告げたと同時、瑠璃香が「あれぇ? なんれ課長かちょぉがここにいりゅんれしゅかぁ? ひょっとしれわらしけて来たんれしゅかぁ? やぁーん。ストーカーしゅとぉかぁ反対はんらーい!」と、間の抜けた声で抗議した。


一刻も早く瑠璃香をこの場から連れ去りたいというのに……。

「ややこしくなる。小笹。お前はちょっと黙っとけ」

晴永が上司の顔で瑠璃香を見下ろしたら、

「ほりゃね。そうやってしゅぐ上からものを言うー!」

瑠璃香が頬をぷぅっと膨らませて「らから、鬼らって言われるんれすよ、新沼課長にいぬまかちょぉは!」と抗議してくるからたまらない。

「いや、これは……別に上からと言うわけじゃ……」

しどろもどろで言い訳しようとしてみたものの、考えてみれば今は仕事中ではないのだ。緊急事態(?)とはいえ上司面じょうしづらし過ぎてしまったのは謝らねばならないだろう。

「すまん。そのつもりはなかったが……小笹がそう感じたんなら俺が悪かった。――けど……ホントここに残ってたら危険なんだ。俺と帰ろう」

謝罪しつつも瑠璃香の腕を掴んだ――のだが……。

「えー、イヤれすよぅ! せっかく気持ちよくにょんでるのにぃ」

「だからってこれはどう見たって飲み過ぎだろ! この酔っ払い娘が!」

ムウッと唇を突き出されて可愛らしい抗議をされた晴永は、可愛さ余って憎さ百倍。嫌がる瑠璃香を無理にでも連れ帰ろうと手に力を込めた。

「やーん、新沼課長にしゃらわれるぅー!」

途端、瑠璃香にイヤイヤをされて、さすがに怯んだ。

そんな晴永に、カウンター越しの声が掛かる。

「新沼さん」

低く穏やかな声。マスター――明智あけちだ。

その卵焼き俺にも食わせろ!―ワンナイトラブから逃げたはずなのに、契約で縛られてました!?―

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