『初音ライダー剣』
第26話
“復活”
コーカサスアンデッドとの戦いの後、ルカ/カリスとリン/レンゲルはBOARD宿舎には来ず、その場から去った。2人の行方を気にかけるBOARDの面々は引き続き、彼女らの行方を追っていた。そんなとき、BOARD宿舎に城光が訪ねてきた。
光「失礼する。」
出迎えたミクは光の突然の来訪に驚き、まず光に名前を問う。
ミク「あの、どなたですか?」
光「私は城光。アンデッドだ。」
ミク「へ!?」
光は早々にタイガーアンデッドへと変化し、正体を明かす。ミクはいきなり素性を聞かされて驚くが、タイガーアンデッドはすぐに光へと戻り、敵意はないことを訴える。
光「警戒しなくていい。ここに来たのは頼みがあるからだ。」
ミク「へ?頼み?」
光「仮面ライダーレンゲルについてだ。」
ミク「へ?リンちゃんを知ってるの?」
光「話は奥でさせてくれ。一度に話した方が手っ取り早い。」
光はミクにことわってBOARD宿舎へ上がった。
光はBOARD宿舎の面々を集めて、自分とレンゲル=レンの接点と、リンが今どういう状態なのかを話した。
モモ「それで、リンちゃんはこのままだとどうなるんですか?」
モモは光にリンのことを聞かされ、心配になって問う。
光「カテゴリーAに人格を食われ、外見は人間でも中身はアンデッドになってしまう。」
モモ「そんな…」
モモは落胆する。このままではリンはリンでなくなってしまうことになる。
MEIKO「それで、何か手立てはあるの?」
MEIKOは光に考えを問う。
光「そこはお前たちの介添えが必要だ。」
ミク「何!?」
モモ「介添え?」
光「ラウズアブゾーバー、と言ったか。あれを私に貸してほしい。」
ミク「ええ!?」
光は無理を承知でラウズアブゾーバーを貸してくれと頼む。
キヨテル「…いくら仲間のためとはいえ、会ったばかりの者をすんなり信用することはできません。」
光「だが、他に手はない。頼む。」
ウタ「でも…」
光「信じてくれ。」
光は頭を下げて懇願する。戦士としての高いプライドを持つ彼女だが、リンを救うべく、深々と頭を下げる。
MEIKO「…分かった。」
MEIKOは光の懇願を承諾し、ラウズアブゾーバーを光に差し出す。
光「…すまない。」
光はアブゾーバーを受け取って、再び頭を下げた。
ミク「それで、どうするの?」
光「まずは私があの子に封印される。そして、このアブゾーバーを通してあの子の精神に入り込んで、カテゴリーAの邪気を内側から押さえる。」
光はリンを救うためのプランを簡単に説明する。MEIKOはミクの肩を軽くポンと叩き、光を推す。
MEIKO「リンを頼むわ。カテゴリーQ。」
光「任せてくれ。」
MEIKOは一縷の望みを託す思いで、光を信用してアブゾーバーを渡した。光はアブゾーバーを持ってBOARD宿舎を後にした。
その夜、光はレンを公園に誘い出し、月の光が差す池をバックに自分に挑みかからせる。
レン「まさか誘ってくるなんてな。」
光「どれくらいになったか見てやる。かかってこい。」
光はタイガーアンデッドへと変化し、レンを挑発する。レンはこれに対し、レンゲルバックルを取り出す。
レン「変身!」
「OPEN UP」
レンは仮面ライダーレンゲルへと変身し、レンゲルラウザーをかまえてタイガーアンデッドに挑みかかる。だが、タイガーアンデッドはじっと立ち尽くし、レンゲルの攻撃を待つ。そして、レンゲルラウザーの刃はタイガーアンデッドの腹を突き刺し、アンデッドクレストを開かせた。
光「…それでいい。」
タイガーアンデッドはレンゲルの肩を軽く叩き、早く自分を封印するよう指示する。レンゲルは早速、ブランクのラウズカードをタイガーアンデッドのアンデッドクレストに近づけ、タイガーアンデッドを封印した。
レン「ん?」
レンゲルはタイガーアンデッドが封印された直後、その場に落ちたラウズアブゾーバーに目を遣った。そして、ラウズアブゾーバーを拾い上げた。
レン「へへ…」
レンゲルは微笑して変身を解き、レンの姿に戻った。
その翌日、レンはミクを公園に呼び出す。その立ち合いにはMEIKOとモモが付いた。
レン「よお、ちゃんと逃げずに来たな。」
ミク「…」
ミクはレンに近寄る。その目は真剣だ。
レン「へへ、いつでもいいって顔してんな。んじゃ、行くぜ。」
レンはミクの真剣な目を見て嬉しそうに微笑し、レンゲルバックルを取り出す。ミクもまた、これに応じてブレイバックルを取り出す。
レン「変身!」 ミク「変身!」
「OPEN UP」 「TURN UP」
音声の後、レンはレンゲルに、ミクはブレイドに変身し、互いに武器を取って斬り結ぶ。そして何度か打ち合った後、鍔迫り合いに入ったところでレンゲルはブレイドを挑発する。
レン「なってみろよ!ジャックフォームに!」
ミク「…!」
ブレイドは鍔迫り合いを捨て、♠QとJのカードを取り出し、ラウズアブゾーバーでラウズする。
「ABSORB QUEEN」
「FUSION JACK」
ブレイドは金色の光に包まれてジャックフォームとなった。その直後、レンゲルもラウズアブゾーバーを取り出す。先日、光=タイガーアンデッドがMEIKOから譲り受けたものだ。
レン「ブレイド、俺の新しい姿(フォーム)を見ろ!」
レンゲルはそう言って♣Qのカードを取り出し、ラウズアブゾーバーにセットする。
「ABSORB QUEEN」
レン「うっ!?」
音声の後、レンゲルの体の周りに電撃が走り、レンゲルは苦しみ出した。
レン「う、うわあああああ~!」
鏡音リンは辺り一面が真っ白な空間にいた。そこに、鏡音レンが来た。レンは早速リンに声をかける。
レン「よお。」
リン「っ!」
レン「何ビビッてやがる。そんなだからオレが出てきたんだろ!」
レンは身構えるリンに言う。
レン「それよか、今後はもうお前の体を一切オレによこせ。お前ができないことをオレがやってやる。だから、安心してオレに食われな!」
レンはリンに近寄り、リンの右腕を取って掴む。
リン「い、嫌!」
レン「大人しくしろ!」
リン「嫌!放して!」
リンは怖くなってレンの左手を無理矢理解こうとするが、レンの力は強く、離れない。だが、そこに思わぬ救世主が来た。嶋昇だ。
嶋「その手を放しなさい。」
リン「へ?」
レン「お前…!」
嶋はレンの肩を軽くたたき、リンの手を放すように言う。レンはたじろぎ、リンから手を放して一歩退く。
リン「嶋…さん?」
嶋「ああ。」
リン「何でここに…?」
嶋「彼女が介添えしてくれたおかげで、ようやくここへ来れた。」
リンは嶋の出現に驚く。嶋は「彼女のおかげだ」と言って後ろを向く。その先からは城光が来た。
光「リン、邪悪な意思に惑わされたり、恐れたりするな。そこから付け込まれる。」
光はリンに邪悪な意思に惑わされたり、恐れたりするなと忠告する。だが、リンは自分を律する方法が分からない。
リン「でも、どうすれば…」
嶋「よく考えるんだ。君の大事なものは何か、君の信じるものは何か。」
嶋は迷うリンに対し、自分の大事なもの、信じるもの、戦う理由について問う。
リン「…私、一緒に戦って、支えてくれる人たちが大事!その人たちのために戦いたい!」
リンはかつて嶋に言われた言葉を思い出し、自分の一番大事なもの、および信じるものを自分と一緒に戦い、支えてくれる仲間たちとした。
嶋「では、それを忘れないことだ。」
光「迷うことがあったら、まずそれを思い出せ。」
リン「うん!」
嶋と光は自分の大事なもの、信じるものを見つけたリンの背中を後押しする。それを見ていたレンは頭痛が発生した。
レン「な、何だこの感じ…う、うあああああ!」
レンは強烈な頭痛に思わず叫び、リンの精神世界から消え去った。
そして、現実。レンゲルバックルからスピリチアエレメントが投影されてレンゲルはリンの姿に戻った。同時に、スパイダーアンデッドも♣Aのカードから解放され、リンと対峙した。
リン「…今度こそ、お前を封印する!」
ミク「え!?」
MEIKO「あの声…」
リンはスパイダーアンデッドと対峙し、スパイダーアンデッドの封印を宣言する。しかし、その声はリンではなく、嶋のものだった。そして、宣言の直後、リンはタランチュラアンデッドへと姿を変えた。
MEIKO「あれは!?」
ミク「嶋さん!」
タランチュラアンデッドに憑依されたリンとスパイダーアンデッドは激闘を繰り広げる。タランチュラアンデッドは右腕、スパイダーアンデッドは左腕の鉤爪を駆使して互いを攻撃し合う。両者は拮抗し、中々決着が着かない。そこに、スパイダーアンデッドが糸を発射し、タランチュラアンデッドを絡め取る。タランチュラアンデッドは糸を取るべく、池に入った。スパイダーアンデッドもこれを追撃すべく、池に入る。そして、その追撃を受けたタランチュラアンデッドはスパイダーアンデッドの鉤爪を受け、倒れてリンの姿に戻ってしまう。
リン「う…」
スパイダーアンデッドはリンに更なる追撃を敢行する。しかし、その横から強化型ブレイラウザーが飛んできた。ブレイラウザーはスパイダーアンデッドの胴に傷を入れた。
ミク「リンちゃん、今だ!」
リン「…!」
ブレイドはリンに今が攻め時だと伝える。リンは立ち上がり、スパイダーアンデッドの胴に目掛けて、飛び蹴りを入れる。ただの飛び蹴りではなく、嶋/タランチュラアンデッドと光/タイガーアンデッド、2人の上級アンデッドの力がこもった、いわば彼らに支えられての一撃だ。
リン「でやあああッ!」
スパイダーアンデッドはリンの飛び蹴りを受けて、池から弾き飛ばされた。スパイダーアンデッドはそこで倒れ伏し、アンデッドクレストを開いた。リンはそこにブランクのラウズカードを投げ入れ、スパイダーアンデッドを封印した。リンの手元に戻った♣Aのカードは絵柄の余白が紫から金色に変わった。
モモ「リンちゃん、大丈夫?」
モモがリンの側に駆け寄る。リンからは嶋の憑依が離れ、元のリンに戻った。
リン「…うん。それよりさ…」
リンはミクとMEIKOの方へ向き、2人に頭を下げる。
リン「皆、ごめん…私…すごい迷惑かけちゃって…」
リンは深々と頭を下げて周囲の人たちに謝罪する。その目は今にも泣きそうだった。
MEIKO「…反省するのは良い。でも、それより見事だったわ。先の戦い。ちゃんとできるじゃない。」
リン「いや…あれは嶋さんや、ミク姉が手を貸してくれたから…」
MEIKO「でも、最後はちゃんと自分で〆た。もっと自信を持っていいのよ。」
リン「へ…?」
リンは自分の力ではなく、力を貸してくれた嶋やミクのおかげだと言う。だが、MEIKOはそれも踏まえたうえで、自分の力でやり遂げたことだという。
MEIKO「リン。私はもう、あんたの教官役は返上する。次から私の教え子じゃなく、ライダーの1人として一緒に戦いましょう。」
ミク「リンちゃんもこれで、1人前の仮面ライダーなんだよ。」
MEIKO「よろしくね、仮面ライダーレンゲル。」
ミクとMEIKOはリンの背中を押し、ライダーとして戦うことを認める。
リン「…うん!よろしく、先輩たち!」
リンは2人に「1人前の仮面ライダー」と認められ、嬉しさが静かに沸き立った。その様子をルカが後ろから静かに見ていた。
ルカ「…」