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メガネの奥の、鋭い瞳のせいだろうか?
「少し前に杉田さんを通して、顛末書を受けとりました」
「て、顛末書……」
真衣香は、色々と重なりすぎて遠くなってしまっていた記憶をたぐり寄せた。
そうして、慌てて深々と頭を下げた。
「そ、その節は本当に申し訳ありませんでした!」
「いえいえ、それは構わないよ。ですが、少し書類の手直しをお願いしたい」
「……何か不備がありましたか?」
通常、総務課に所属する真衣香が顛末書を提出するとするなら直属の上司である杉田に、だろうが。幸いそれはまだ未経験だった。
小野原との一件は、営業部の仕事だった為、真衣香は高柳あてに顛末書を作成し、提出していたのだ。
だが、提出してから日が経っている。
どんな手直しが必要だと言うのだろうか。
「少しゆっくりご説明したいので、お付き合い願えますか?」
「は、はい……?」
どこへ?と、聞く間も無く、高柳は真衣香の腰に軽く手を添え誘導した。
触れられているのに、いやらしさを全く感じない不思議な距離感。
そして、以前の印象よりも紳士的で柔らかな雰囲気が逆にゾクリと恐怖感を煽った。
「どうぞ乗ってください」
「え?」
案内されるまま歩いていると、社内に引き返しており、地下の駐車場、青い車の前に立たされている。
「助手席は綺麗にしていますので、安心して、どうぞ」
「えっと、これは、高柳部長の……」
車には全く興味がなく、また知識もない真衣香だが、さすがに会社の車でないことはわかる。
何となく気が引けていると。
「俺の車です。すみませんね、社内に戻ると営業部の仕事が立て込んでいるのでゆっくり説明ができそうになくて。食事を兼ねていかがでしょう?」
「しょ、食事……」
「ええ。それと、少し。個人的に話したいこともありまして。うちの坪井のことなんかを」
その名前が出て、真衣香の身体は硬直した。
すぐさま高柳が、固まる真衣香の背中を軽く押して助手席へと言葉は悪いが押し込んだ。
「あ、シートベルト忘れないで」
「……は、はい」
高柳がエンジンをかけながら真衣香に言った。
黒が基調の車内。夜なので、あまり視界は良くない。ドキドキと正面にあるディスプレイをひすらに眺めた。
(……え?え?あれ?顛末書の話で食事ってやっぱりおかしくないかな!?)
緊張もあり、言われるがまま車に乗り込んでしまった、その事実にようやく大きく焦りを感じ始める。
一方、やけに上機嫌な高柳。鼻歌まじりに何やら操作して音楽を流し始めた。
真衣香には全くわからないジャズ調の曲。
(お、オシャレだな……)
……なんて、呑気なことを考えて気を紛らわせた。
一体どこに連れて行かれて、何の説明をされるというのだろう?