テラーノベル
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第2話です。まだ見てない方は1話目を見ることをオススメします
⚠️注意⚠️
ないふ 重めnmmn エセ関西弁
「……いや、意味がわかんないし、俺君になんかした覚えないけど」
アスファルトの上、俺の手の中でないこが低く呟いた。
冷めた声。そこには怒りすらなく、ただ唐突に人生を割り込まれたことへの純粋な困惑と不快感だけが混ざっていた。
当然の反応だ。
夜の橋の上で飛び降りようとしたら、見知らぬ男に押し倒されて、開口一番「一目惚れしたから嫌いな俺に養われてくれ」なんて言われたんだから。意味がわかるわけがない。
でも、その灯りの消えた瞳に俺の姿が映っているというだけで、俺の狂った胸は惨烈な歓喜に震えていた。
「……そりゃそうやろな。あんたは何ひとつ悪くないし、俺に何かしたわけでもない」
握りしめた手首から伝わる、かすかな脈拍。生きてる。俺の手の中で、まだ脈を打っている。
その事実にすがりつくように、俺は逃げ出すこともせず、ただ情けなく笑ってみせた。
「俺が勝手に、あんたの綺麗さに救われただけや。……あんたが死ぬ覚悟を決めてるとき、俺は死ぬのが怖くて土壇場で逃げ出すような、クソみたいな奴でさ」
俺は手首を握る力を少しだけ緩め、でも絶対に解かないように指を絡めた。
「そんな惨めな俺から見たら、全部諦めて向こう側に堕ちようとしてたあんたが、怖いくらい美しく見えてん。……気づいたら手ぇ出してた。あんたの解放を奪って、俺の惨めさを埋めるために引きずり戻してもうた」
自分の身勝手さを、包み隠さず吐き出す。
嫌われて当然。蔑まれて当然だ。俺は最低な人間で、彼にとってはただの邪魔者でしかない。
「なぁ、頼むから俺を恨んでくれよ」
地べたに這いつくばったまま、俺は下から彼の顔を見上げた。
「意味分からんままでええ。変人に絡まれたと思って、俺のことゴミを見る目で見つめ続けてくれたらええから……。頼むから、俺の家に来てくれへんか」
「……何それ。頭おかしいんじゃないの」
「お互い様やろ。夜中の橋から飛び降りようとしてたあんたと、それを力ずくで止めて養おうとしてる俺。どっちも狂ってるわ」
自虐的に微笑みながら、俺はゆっくりと立ち上がり、彼に向かって手を差し伸べた。
「何もせんでええ。部屋の隅でじっとしててくれたらええから。俺の金でメシ食って、俺の金で温かい布団で寝て……俺を嫌いなまま、ただ息だけしててくれ」
差し出した俺の手は、情けないくらいに震えていた。
彼がこの手を拒絶して、もう一度あの欄干に向かったら、俺は今度こそ狂ってしまうかもしれない。
「お願いやから、俺に償わせてください」
夜風が吹く中、俺はただ、彼の返答を待っていた。
「……どうせ死ぬ気だったし、いいよ」
「……っ」
その言葉が落ちた瞬間、喉の奥がキュッと絞まるような感覚がした。
「いいよ」なんて、あまりにも軽い承諾。
それは俺の手を取ってくれたわけでも、生きる気力を取り戻してくれたわけでもない。ただ「死ぬ予定だったから、どう扱われようがどうでもいい」という、究極の投げやりな妥協だ。
それでも——俺の心臓は、浅ましくも歓喜で跳ね跳ねていた。
「……ほんまに、言ったな」
気が変わらないうちに、俺は差し出した手を強く握り締め、彼を立ち上がらせた。
ふらりと頼りなく揺れた細い身体を、思わず倒れないよう抱きかかえるように支える。伝わってくる熱が、彼がまだこの世に留まっている証明だった。
「撤回しても遅いからな。あんたの命、俺が買い取ったようなもんやから」
そう口にしながらも、俺の胸を占めるのは圧倒的な惨めさだ。
死を諦めさせたんじゃない。死ぬことすら面倒くさくなった彼を、俺の欲望のために連れて帰るだけ。
俺は自分の上着を脱ぐと、夜風に晒されて冷え切っていたないこの肩に乱暴に羽織らせた。
俺の体温が残る服に包まれても、彼は顔色一つ変えず、ただどこか遠くを見るような瞳で俺に従っている。
「……帰ろ。俺の家、ここから近いねん」
繋いだ手首だけは絶対に離さないようにしながら、俺はゆっくりと歩き出した。
俺を殺すほどの恐怖だった「生」を、この人はこんなにも簡単に手放そうとしていた。
その圧倒的な絶望の美しさに惚れ込んでしまった俺は、これから彼を俺の家という檻に閉じ込める。
嫌われたっていい。気味悪がられたっていい。
俺の顔を鬱陶しそうに見つめるその瞳に、ほんの少しでも俺という存在が映り続けるなら。
「……なぁ、名前」
前を向いたまま、ぽつりと問いかける。
「俺はIf。……あんたの名前、教えてよ」
夜の街を、二人分の不揃いな足音が静かに響いていた。
「…ないこ」
ボソッと呟かれたその短い名前が、夜の静寂の中にふわりと溶けた。
「……ないこ、か。ええ名前やな」
口の中でその音を反芻してみる。
名前を知ったからといって、二人の距離が縮まったわけじゃない。ただ、俺を通り過ぎて消えていくはずだった存在に、ハッキリとした名前がついただけだ。
繋いだ手首から伝わる体温。俺のデカすぎる上着を羽織って、理由も分からぬまま俺の隣を歩いているないこ。
俺は横目でチラリと彼を見た。
やっぱり、その瞳には何の感情も浮かんじゃいない。俺に助けられたことも、俺に名前を呼ばれたことも、全部どうでもいいみたいに、ただ淡々と足を動かしている。
胸の奥がキュッと締め付けられる。
羨ましくて、美しくて、そして最高に愛おしい。
「ないこ。俺の家、ほんまにすぐそこやから。暖かいものすぐいれたる。お腹すいてない?好きな食べ物とかある?…俺の顔見たくなかったら部屋に引きこもってくれて構わないし」
自分でも引くくらい、必死で捲し立ててしまう。
嫌われてる前提でしか話せない自分が情けなくて笑えてくるけど、それでも手だけは絶対に離せなかった。
「なぁ、ないこ……俺のこと、めちゃくちゃ利用してや。あんたの命、俺が繋ぎ止めてもうたんやから」
薄暗い夜道を、二人で歩いていく。
死にきれへん俺と、生きるのをやめたないこ。
歪みきった俺たちの関係が、ここから始まった
コメント
1件
感想、読ませていただきました……! もう、1話目から続けて読んでるんですが、この第2話、めちゃくちゃ胸にきました。 「死にきれへん俺」と「生きるのをやめたないこ」、この歪な関係性の始まり方が、もう本当に美しくて苦しいです。特に、Ifが「ないこ」の名前を聞くシーン。あの短い名前が夜の静寂に溶ける描写で、一気に二人だけの世界ができあがった感じがしました。手首を離さないように絡める指の震えも、浅ましいほどの歓喜も、全部が切なくて、続きが気になって仕方ないです……! だいすさんの描く、この痛くて綺麗な世界、大好きです。