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静かな夜。涼ちゃんは、机の引き出しの奥からカッターを取り出した。
手のひらにおさまる鈍い銀色――幾度となく心の痛みを和らげようとしたその道具。
けれどカッターを握るその指が、ふるえている。
今にも手首に添えそうになって、ふと𓏸𓏸の顔が浮かぶ。
(……また𓏸𓏸ちゃんに迷惑かける……)
胸の奥がきゅっと縮こまるのを感じて、涼ちゃんはそっとカッターを引き出しの奥に戻した。
代わりに、大きく息を吐いてベッドに身を横たえる。
そのまま、また体が熱に包まれはじめた。
涼ちゃんの様子が心配で、𓏸𓏸は何度も体温計で確認する。
額に手をあてれば、明らかに高熱――苦しそうに汗を滲ませている涼ちゃんに𓏸𓏸は必死でお冷やを用意し、水を飲ませ、何度も体を拭いてあげた。
「涼ちゃん、がんばって……もうすぐ楽になるからね」
夜が更けても、𓏸𓏸はずっと涼ちゃんの傍にいた。
自分もしんどいはずなのに、無理してでも涼ちゃんを抱きしめるように膝元に座り続ける。
涼ちゃんは、もう自分で体を起こすことも難しい。
何度も、熱のしんどさと頭の中のざわめきに苛まれながら、𓏸𓏸の声と、氷枕の冷たさに浸る。
𓏸𓏸が時折、手を握ってくれる。
しんどいときも、苦しいときも、そのぬくもりだけは頼りになる。
(……自分なんか……それでも、𓏸𓏸ちゃんはここにいてくれる……)
もう一度だけカッターに手を伸ばさずにいてよかった――
ほんの少しだけ、そう思えた深夜。
静かな部屋には涼ちゃんの浅い呼吸と、𓏸𓏸がそっとささやく声だけが響いている。
夜が明けるまで、𓏸𓏸は涼ちゃんの髪をそっと撫でながら、
その孤独と痛みに、静かに寄り添い続けた。