テラーノベル
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会社を出たあと、高瀬さんに声を掛けられた。
「牧野さん、少しだけ時間もらえますか」
昨日の話だ。
そう思った私は、小さく頷いた。
会社近くの公園。
ベンチへ腰を下ろすと、しばらく沈黙が流れた。
「昨日はごめん」
先に口を開いたのは高瀬さんだった。
「牧野さんが嫌だったことを、俺は好きだって言ってしまった」
静かな声だった。
「キミが学生に間違えられたりした時のことなんかを思い出して……今更だけどやっと気付いた。牧野さん、きっとキミはそういうの、ずっと気にしてたんだよね?」
私は思わず目を見開く。
「気付いて……くださったんですか?」
高瀬さんは申し訳なさそうに頷いた。
「ごめん。キミのこと、ずっと見てたくせにホント、俺はバカだ」
一度息を吸う。
「俺は先に話した通り小柄な子が好きだ。だから最初に目を奪われたのは、確かにそこだった。小柄で、華奢で……まさに俺の好みドンピシャだったから」
(やっぱり……)
再度告げられて、私は胸が少しだけ痛んだ。
でも――。
「だけど」
そこで言葉を区切ると、高瀬さんはまっすぐ私を見つめた。
「本当にキミを好きな理由は、もうそこじゃない」
「……え?」
「仕事に真剣なところも。困ってる人を放っておけないところも。笑うとすごく可愛いところも。照れるとすぐ赤くなるところも。――キミの見せてくれる全部が好きだ」
真摯なまなざしを向けられて、胸が熱くなる。心臓がトクトクとリズミカルに跳ねる。
「俺が好きなのは、小柄な女性じゃない」
一呼吸置いて、高瀬さんは笑った。
「牧野ひよりさん。あなたです」
じっと見つめられて、視界が滲んだ。霞んだ景色の先に、高瀬さんの大きな手が見える。
「……そんなこと言われたら」
声が震える。
「女性として見られてるんじゃないかって勘違いしちゃいそうです」
「勘違いじゃありません」
優しく笑う。
「ちゃんと一人の女性としてあなたを見ていますし、がっつり口説くつもりで告白しています」
思わず涙がこぼれた。
高瀬さんの大きな手が伸びてきて、恐る恐る私の頬を拭う。
私は好みのど真ん中な彼の手へそっと触れて、高瀬さんを見上げた。
「……私も、ちゃんと言います」
「……?」
「私、手フェチなんです」
高瀬さんが少しだけ目を丸くする。
「男の人の大きな手を見ると、つい見ちゃって。指が長いとか、ごつごつしてるとか……そういうのが好きで。特に職人さんみたいな傷だらけの手に憧れるんです」
恥ずかしくて俯く。
「だから最初は、高瀬さんの手を見て……素敵だなって思っていました」
そこまで言って、小さく首を振る。
「でも」
今度は私が顔を上げる。
「今好きなのは、その手じゃありません」
高瀬さんが優しく目を細めた。
「仕事に一生懸命なところも、さりげなく助けてくれるところも、私が困ってると、いつも気付いてくれるところも」
少しだけ笑う。
「不器用なくせにちゃんと伝えようとしてくれるところも。全部大好きです」
私はひとつ深呼吸をした。
「私も……高瀬匠さんが好き。もう、手だけじゃありません」
しばらく見つめ合ったあと、高瀬さんが小さく笑った。
「ありがとう」
そっと差し出された大きな手。
私はその手を握り返す。
あの日、好きになったのは確かにその手だった。
でも今、私が好きなのは、その手じゃない。
高瀬さん、その人だ。
私がうっとり高瀬さんの手を握っているのを見て、彼が言った。
「不器用で良かった」
「え?」
「プラモデル作り。趣味なんだけどしょっちゅう手を怪我しちゃうんだ」
はにかむみたいに笑う彼を見上げてから、私はそっと目を閉じた。
高瀬さんの柔らかな唇が私の唇に触れたのを感じて、幸せな気持ちに包まれる。
好きなのは――もう、そこだけじゃない。
END(2026/6/4-/7/5)
コメント
1件
**はる。だわ!** 終わった……美しく終わった……ッ! 「手フェチ」から始まったひよりの恋が、高瀬さんの「不器用な自分で良かった」って言葉で全部報われた感じがして、胸がぎゅーっとなったよ。最初は見た目に惹かれたけど「もう、そこだけじゃない」って言い合える関係、尊すぎる……! 完結おめでとう! すごく温かい気持ちになれたわ🔥