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……見られている、冨樫さんに。


翌日、仕事をしながら、壱花は緊張していた。


かつてないくらい冨樫に凝視されていたからだ。


なんなんだろうな。


……こ、このままだと息もできない、と思った壱花は、鋭い冨樫の視線に対抗するべく、ゆっくりと振り向いた。




昨夜見た光景を思い出しながら、冨樫は壱花を観察していた。


やはり、この二人、そうなのか?


ちょっと意外な組み合わせだが。


人間は自分にないものを補おうとして、真逆なものに惹かれるというからな。


仕事もできる才色兼備のいい女が、駄目男の面倒を見られずにいられないように。


そういう意味では意外ではないか。


仕事の手を止め、思わず、壱花を凝視してしまったそのとき、壱花がホラー映画に出てくる呪いの人形のように、ゆっくりと首だけこちらに向けて振り返ってきた。


「あの……なにかご用ですか? 冨樫さん」


「用はない」


そ、そうなんですか……と壱花は困ったような顔をする。


ちょうどそのとき、木村が席を立った。


手にしている書類を読み返しながら、秘書室を出て行った木村の足音が遠ざかるのを待って、冨樫は言った。


「お前、社長と付き合っているのか」


「……いいえ」


「本当か?」

と突っ込むと、壱花は少し考えるように小首を傾げ、


「社長の道楽になら付き合ってますけどね」

と言葉を選ぶように言ってきた。


こちらの言葉の先を読みながら、なにかを誤魔化そうとしているようだった。


ぼんやりしてるが、莫迦じゃないからな、と思いながら、壱花を見る。




「おや、化け化けちゃん。

今日はひとり?」


今日はあまり客もなく、壱花が駄菓子屋のカウンターでぼんやりしていると、化け狐、高尾がやってきた。


「そうなんですよ。

でもまあ、ちょうどいいかなって」


「なにがちょうどいいわけ?」

と倫太郎がいつもいる場所に腰を下ろし、高尾が訊いてくる。


「いやあ、今日、会社の人に、社長と付き合ってるのかって言われちゃって。


会社では緊張してるから、そんなことないとは思うんですけど。


私、知らない間に、社長に馴れ馴れしくしてたのかも。


それで、外では社長とちゃんと距離をとれるようにしたいって思ってたところなんで。


あんまり社長と接触しないのもいいかなって」


そう言うと、狐は、

「壱花ちゃんがそんなこと言うと、倫太郎が寂しがるよ。

まあ、僕には都合がいいけどね」

と肩に手を回し、言ってくる。


その手を払いながら、

「そういえば、高尾さんって、元は狐なんですよね?

化ける狐の人って、変身したらどんな顔にするとかって自分で決められるんですか?」

と前から疑問に思っていたことを訊いてみた。


一時いっとき変身するのは、なんにでもなれるよ。

壱花ちゃんにもなれる、ほら」

と高尾が言った瞬間、目の前に自分が現れた。


ひっ、と壱花は身を引く。


鏡でもないのに、目の前に自分がいると、なんだかわからないが怖い。


生物的に怖い。


いや、双子や三つ子の人とかなら、自分と同じ顔の人間を見慣れているのだろうが……。


だが、ほんとうに一瞬で高尾の顔は元に戻った。


「持続させるのにエネルギー使っちゃうんだよね。

この顔は楽。


たぶん、人間だったらこんな顔っていうのがあるんだと思うよ。

自分のしょうに合った顔っていうかね」


「いや、それが高尾さんのその顔、さっき話した、会社の冨樫さんって人と似てるんですよね。


そっくりって程ではないんですが」


「そうなの?

ああでもねえ、僕のこの顔はさ。


とある男からもらったものなんだよね」


「え?」



あやかし駄菓子屋商店街 化け化け壱花 ~ただいま社長と残業中です~

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