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#『彼』の行く末
鐘寺 実昼
345
#転生
るな
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第三章母
コツコツと、病棟の廊下に足音が響く
私は琴吹と書かれた病室に手をかける
一見分厚く見える扉はいとも簡単に開き、穏やかに眠る母の顔が見えた
「お母さん、今日はお母さんの好きな白色のアザレアとカスミソウだよ」
そう言い、棚の上の花瓶に差し替える
母の好きな花はあまり有名な花ではない
それでも花屋に勤めていた母にとっては一押しだったらしい
これを知ったのは最近だ
そう考えると母のことを何も知らないのだなと、実感することが多い
未だ目を覚ます気配がない母の手を取り
「早く起きて、お母さんのこともっと教えてよ…」
そう願いながら弱々しく口にする
卓上の時計が15時になったのに気づき、鞄を持ち部屋を後にする
そして人気のない隣館に渡る
この館は本当に人気が少なく、すれ違う人もほとんどいない
会うとすれば、受付係の人達ばかりだ
大丈夫なのかと心配になるほどに
3階に続く階段を登る
本館とは違い、小さい別館はエレベーターが1台しかない
そして渡り口から遠いので毎回階段で向う
降谷と書かれた扉を見つけ覗き込む
この前の一件があったため、病室に入るときは中を確認してから入ると陽陰に決められたからだ
隙間から見える陽陰は悲しそうな表情を浮かべ、外の景色をじっと眺めている
その姿は到底12歳の少女だとは思えないほどだ
コンコンと扉を叩き、部屋に入る
「また来たよ」
なんて声をかければいいのか毎回わからない
それでも毎週通う私はどうかしているのかもしれない
ベッドの上の陽陰は先程の悲しい表情ではなく、少しばかり表情が緩んでいた
(少しは慣れてくれたかな)
なんて安堵の気持ちが湧く
『こんにちは』
すらすらと慣れた手つきで文字を書く
「こんにちは!」
と元気よく微笑む
『今日も元気ですね』
「私はポジティブなのが取り柄だからねw」
いつもこんな話から始まる
妹ができたみたいに、頭を撫でてみる
一瞬驚いたような表情になる陽陰に思わず笑ってしまう
『な、なんで笑うんですか、!』
と照れたようにスケッチブックを口元に当てて隠す
「いやだって、wかわいいなって思って!」
『かわいくは、ないです…』
ふいっとそっぽを向いてしまう
どうやらツンデレらしい
『あ、そういえば』
と、陽陰が話題を変えた
『明後日母が来るみたいです』
「えうそ、!?あんまり来ないんじゃなかった?」
驚きのあまり、声を荒げてしまう
『そのはずなんですけど、なぜか日向がここに通っていることが伝わっていたみたいで…』
『恐らくそれを聞きに来るのかと、』
そう言い続ける陽陰は何故か寂しそうな目をしている
「まあ、会えるんでしょ?よかったじゃん」
『……』
夕方の静かな風が私達の間を通り抜ける
『そうですね』
10秒ほどの短いようで長い時間が過ぎ、陽陰が返事をする
「あっ、もうこんな時間」
「ごめんね今日は帰るね」
私はここに居られなくて卑怯な手段を使った
今の私には陽陰にかける言葉を見つけられない
薄暗くなる病棟にはぽつぽつと明かりが付き始める
それでも何故かずっと暗く感じてしまう
一人で歩く帰路はいつもより重たく、木々が風で揺れる音だけが耳に残る
「ただいま〜」
帰るなりソファにダイブしてしまう
「はあぁぁ…」
大きなため息が誰もいない静かな家に轟く
そのまま食事も取らず私は眠りに落ちた
第四章本音
[ここの解き方は__]
長ったらしく数学の説明をする教師
授業中だと言うのに2日前のことが頭から離れない
窓際席にいる私はいつもの陽陰のように窓の外を眺める
今日は風が強いらしい
昇降口に続く夏木へと移り変わる桜木が風に揺られている
[琴吹さん!]
先生に呼ばれ、現実に戻る
「えっ!はい!」
[はぁ…、ここの問題を解いてください]
「あ、えっと、答えは__です」
[…正解です。次からはちゃんと聞いていてくださいね]
「すみません」
先生の出した問に難なくクリアし、授業が終わる
〈日向ナイス!w〉
「え、なにが?」
身に覚えのないことを褒められて驚く
〈さっきの授業だよ!〉
〈あいつうざいんだよね、ちょっとぼーっとしてただけなのに当ててきてさ〉
〈答えられなかったら煽ってくるんだよ?〉
たしかにと、記憶を探る
〈だけど日向が答えたからさ!〉
〈あいつ悔しそうだったよ〜w〉
〈だからナイス!!〉
「なるほどねw」
と、昼食の弁当を口に運ぶ
こんなときでも先日の陽陰の様子を考えてしまう
そんなことを思って学校から帰路についたのだが、気づけば足取りはあの病棟へ向かっていた
「あ、」
せっかくここまで来たのならと、制服のまま玄関口を通る
3階までの長い階段を息切れになりながらも登る
ふと、廊下にまで響く声が聞こえた
いつもはしない声の主に違和感を覚える
その声は降谷陽陰の病室で聞こえてくる
そういえばと、先日の陽陰の言葉を思い出す
“明後日お母さんが来るから”
あの声は陽陰の母親なのだろう
来て早々、居づらくなったためその場を後にそそくさと帰宅しようかと思い始めたとき
病室から怒鳴り声が聞こえた
「!?」
離れかけていた足をもう一度扉の前へ置く
隙間から見える陽陰の母親と思わしき人物は、涙目になっている陽陰をもろともせず怒鳴り散らかす
入ってはいけないことは本能でわかる
だがこれをほおっておけるほど私は安易な奴ではない
思いっきり扉に手をかけ開ける
「あの、さっきから何に怒鳴っているんですか…?」
自分ではわかっていなかったが、相当怒っていたらしい
重たい空気が部屋に漂う
〔はぁ…、貴方がこの子の言う高校生のお姉さんね〕
〔話を聞いていたなら早いわ〕
〔この子に関わることやめてくれないかしら〕
「…は、?」
母親から出た言葉とは思えない単語が聞こえ戸惑う
〔この子は余命幾ばくもないの〕
〔病気の進行が早くて〕
〔だからこの子が悲しまないように、楽に天国へ行けるように、協力してくれないかしら〕
私はその言葉の意味がわからなくて、立ち尽くす
「…貴方の言っていることはよく分かります」
〔でしょう?だからもうこの子とは関わらな_〕
「ですが、」
母親の話を遮り、先程とは打って変わる形相で見つめる
「天国に行くときに悲しくならないように?」
「なら今は悲しかったり寂しかったり、していいんですか?」
「その寂しさとかを残りの時間を目一杯に使って、埋めてあげるのが母親なんじゃないんですか…?」
後ろから心配そうに見つめる陽陰
恐らくついさっきまで泣いていたであろう、涙痕がはっきりと見える
〔……そう、まあそれでもいいわ〕
〔その判断がこの子を苦しめる事になっても、私は知らないから〕
そう言い残し足早に出ていく
『…どうしてここに、?』
今にも泣き出しそうな顔で問いかけてくる
「今日ね、ずっと陽陰のこと考えてたの」
「そうしたら足が勝手にここに来てて」
「…怖かった、よね」
恐る恐る聞く
私は俯いたまま陽陰の顔を見れない
トントンと、軽く肩を叩かれる
正面に見える日陰の表情は穏やかだった
『怖かったけど、日向が来てくれたから怖くなくなったよ』
『日向はヒーローだね』
と苦し紛れに笑う
“無理に笑わなくていい”
そう言いたいが、あまり口出しはしないほうがいいのだろう
「ヒーローか、w」
2人顔を見合わせて吹き出す
『…今まで黙っててごめんなさい、』
そう言い始め、陽陰の秘密を教えてくれた
陽陰は、失声症の他にも数年前に脳卒中を起こしており、次に再発したら陽陰の小さな体では耐えきれないだろうと医師が判断したらしい
そのときの診断が余命半年
それから2ヶ月もの月日が経っていることを知った
『だから、私はもう長くないの』
『…いやだよねこんな話』
重々しい雰囲気の中全てを告げてくれた
『…私、誕生日迎えられないかもしれないの』
前に話していて知った陽陰の誕生日
今は5月初旬
余命を告げられたのが2ヶ月前
7月7日、これが陽陰の誕生日だ
七夕が誕生日なんてロマンチックなものだ
「…嫌じゃないよ」
先程の問いに答える
『え、?』
「陽陰がちゃんと話してくれて嬉しい」
「それに、話すの怖かったと思う」
「それなのにありがとね」
と彼女の頭を撫でる
いつもならもう子供じゃないと手を払い除ける
だが今は違う
頭の上に置かれた私の手を握りしめながら泣き出す
陽陰が今何を思っているのか、考えているのかわからない
背中をさすりながら抱きしめる
今だけは純粋に小さい子供で居てほしい
次回第五章:歌
アザレア(白)
花言葉:「あなたに愛されて幸せ」「充足」「満ち足りた心」
カスミソウ
花言葉:「感謝」「幸福」「清らかな心」「無邪気」「親切」
コメント
11件
泣けるんだけど
うわあああ第3話、めっちゃ重くて切なくて胸がぎゅーってなったよ…😭💔 陽陰の余命のこと、お母さんの冷たい態度、全部知ってるのにそれでも陽陰のそばにいようとする日向が強くて優しすぎる…!「今は悲しかったり寂しかったりしていいんですか?」って日向の言葉、めっちゃ刺さった…。陽陰がやっと心開いて泣けたシーン、一緒に泣きそうになったよ😢💕 次回の「歌」も気になる〜!