「……けれど、あなたとは別れがたくて……深く胸の底に隠したはずの自分が、あなたの前では晒け出されていくようで……」
慈しむような彼の眼差しが私を見つめる。
「……ただあなたが好きで、離したくはない。
私は、あなたと別れたくはないんです……」
椅子から立たされ、彼の腕の中にきつく抱き寄せられる。
「……こんなにも、誰かを、好きになることなど……」
ぎゅっと強く、胸に身体が抱え込まれる。
「……人を、愛したいと思うなど……」
耳のそばにある唇が、
「……あなたを愛してる、智香」
私の名前を初めて呼んで、彼らしからぬような真っ直ぐな愛の言葉を告げた──。
「私も……」
彼の顔を振り仰いで、
「あなたのことを……愛してる……」
込み上げる想いを伝えると、胸のつかえがスーッと落ちていくのを感じた。
……もう、決して揺らいだりしないと思った。
違いすぎるとかじゃなく、ただ好きでいること……彼との付き合いの中で、見てきたものは……、
愛したいと心から思う、ありのままの目の前の人の姿だった……なのに、それをいつしか自身で見失って……。
「わかってくれたのなら、いいのです。…さぁ、食事を済ませてしまいましょうか?」
そう優しげに話す彼に、涙を拭い笑顔で頷いた──。
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