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放課後、教室で悠真が私に声をかけた。
「今度の夏祭り、一緒に行かない?」
意外すぎて、一瞬言葉が詰まった。
毎年のように律と行っていたけれど、その約束は、今年はまだしていない。
「……うん、いいよ」
返事をした瞬間、胸の奥がふっと暖かくなる。
そのことは、律には何も言わなかった。
そして終業式の前日。
昇降口で律が待っていた。
「おー、みい。……あのさ、夏休みの――」
言いかけた瞬間、背後から悠真の声が飛んできた。
「みい、明日の宿題プリント持った?」
「あ、忘れるとこだった!ありがとう」
私が振り返って悠真と笑い合う横で、律はほんの一瞬だけ、視線を細めた。
「……で、なんだっけ?」
「いや、別に」
そう言って靴を履き替える律の横顔は、どこか不機嫌そうに見えた。
ー夏祭り前日。
偶然律にばったり会った
彼は笑いながら当たり前のように言った。
「明日、行くか? いつものとこから」
毎年同じ場所、ちょっと急な坂になってる小さな踏切で待ち合わせ、同じ道を歩いてきた――その当たり前を、今年はもう決めてしまっている。
私は答えられずに黙ってしまった。
律の笑顔が、すっと消える。
「……誰と行くんだよ」
正直に告げると、律は小さく鼻で笑い、視線を逸らした。
「……勝手にしろ」
その声が、いつもより少し低く響いた。