ファーミンが唇を優しく押し当てるだけのキスを何度も繰り返す。
繰り返しされるその優しいキスにオーターはうっとりとした。
(この男でも、こんな風に優しく触れられるんですね。)
そんな事を思いながら、ファーミンからのキスを受けるオーターの頬がほんのりと赤く染まっていく。
その様子を見てキスをしながらファーミンが目を細めた。
(可愛いな。このまま抱いたらどんな顔を見せてくれる?どんな声で鳴くんだ?知りたい、抱きたい。こいつの身体中舐めて、オレのを中にぶち込んで、揺さぶって、鳴かせて、中にぶちまけたい。こいつの中をオレでいっぱいにしたい。)
その優しいキスとは裏腹な激情を抱きながらファーミンがそっと唇を離す。
オーターも目を開けてファーミンを見つめた。
彼の目には普段の冷たさはなく熱を帯びトロンとしていた。
ドキッとファーミンの心臓が跳ね、思わず息を呑んだ。
(本当にこれがあの普段から冷静沈着な砂の神覚者・オーター・マドルか?・・・もう我慢できない。)
ファーミンは自分を見つめたままのオーターの耳元に唇を寄せ囁いた。
「オーター。・・・・抱きたい。」
「んっ!」
至近距離で囁かれた熱をはらんだ低い声に、ピクッと震えながら目をギュッと閉じオーターが声を上げた。
その声と仕草がよりファーミンを煽った。
「なあ、ダメ?」
いますぐにでも押し倒したい衝動を抑えながら聞く。
かつてのファーミンならば、相手の事など微塵も考えずに自分の欲望を満たすために強引に事を進めていただろう。
今彼がそうしないのは、相手が他でもない初めて心の底から欲しいと思えたオーターだからだ。
「・・・・・。」
「・・・・・。」
お互い無言のまま数分が経過し、オーターが口を開いた。
「駄目です。」
「・・・・・え。」
ーダメ?
「何で?」
てっきり聞き入れてもらえると思っていたファーミンが内心ショックを受けながら聞く。
「ここは執務室で、いつ誰が入って来るか分かりません。」
(いや、キスまでしたのにか?)
「それに」
「それに?」
「明日の仕事に支障が出ます。」
何とも仕事人間の彼らしい言葉にファーミンが「はははは」と声を上げて笑った。
「何がそんなに可笑しいんですか。」
「仕事バカのお前らしいなと思って。はは。」
「仕事バカではなく、仕事熱心と言って下さい。」
「お前は熱心ですまないからな。」
笑いがおさまったファーミンが冷静にツッコミを入れる。
「で、いつ何処でならいいんだよ?」
「そうですね。明日はちょうど週末ですし、明日の仕事が終わった後にして、場所は貴方を収容している独房にしましょう。」
「いいのかそこで。オレが言うのもあれだけど犯罪者を入れとく所だぞ?」
「いいも何も任務以外の事で貴方を外に出す訳にはいきません。それに独房の中なら貴方は自由に行動できるでしょう?」
「・・・・・分かった、それでいい。」
「では明日、仕事が終わり次第独房で。」
「ん。」
先程までの甘い雰囲気はどこへやら。おあずけをくらった挙句、いつの間にか業務連絡をする様な流れになってしまいファーミンはモヤモヤしたが、楽しみが少し先に延びただけと無理矢理自分を納得させるのだった。