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敵の敵は味方だから
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この娘は、何をしているんだ?
どうして鬼である自分を助けたのか、皆目検討がつかない。
珠世に頼まれて薬草を採りに行った先で、愈史郎は鬼に襲われた。
同じ鬼である自分を狙って共食いしようとするくらいよっぽど腹を空かしていたのか、それとも鬼舞辻無惨とは別の者によって鬼になった自分が珍しかったのか、理由は不明だったが。
椿彩はというと、別の任務の帰りに誰かの揉める声が聞こえてそこに向かった。
誰かが鬼に襲われている。
…いや、襲われているほうも鬼だと、直感で分かった。
でもきちんとした身なりで、何かを入れた籠を背負っている。
とりあえず襲っているほうの鬼に矢を放つ椿彩。
日輪刀と同じ鉄が使われた鏃が鬼の目玉に突き刺さる。
相手が怯んだところで、刀を横に振り鬼の頸を斬り落とした。
『…あの、大丈夫ですか?』
蝶の形の髪飾りをつけた、まだあどけなさの残る顔立ちの少女。
背中には“滅”の文字。紛れもなく鬼殺隊員だ。
鬼を狩るのが仕事の彼女が、なぜ自分を殺さず気遣ってくるのか。
「何なんだお前は。俺は鬼だぞ。どうしてさっさと頸を斬らない?」
『…あ、やっぱり鬼なんですね。何となくですけど、倒さなくていいって思って』
話しながら、そこらに散らばった薬草を拾う椿彩。
鬼に襲われて揉み合いになった際に籠からこぼれてしまったものだ。
『はい、これ。籠の中のと一緒ですよね?…薬草?…ってことはお医者さんですか?』
「俺は医者ではない。俺の敬愛するお方はそうだが」
会話をしながら、“目”の血鬼術で珠世と視覚を共有し、情報を送る。
すると驚くことに、目の前の少女を連れてくるように頼まれた。
自分と珠世の大事な場所へ得体の知れない小娘を招き入れるのは正直とても嫌だったが、珠世の頼みなら仕方ない。
「……俺の主人がお前を呼んでいる。一緒に来てもらおうか」
『え!?……わ、分かりました』
「獲って食いやしないから心配するな。あのお方はそんな方ではない」
『…ということは、ご主人様も鬼ですか?』
「ああ。察しのいい奴は嫌いじゃない。お前の血肉なんぞ興味ないから安心しろ。…お前、鬼殺隊だろ?名前は?」
『夏目椿彩といいます』
「俺は愈史郎だ」
愈史郎に連れられ“珠世”のところへやって来た椿彩。
「珠世様!ただいま戻りました!」
「おかえりなさい。…あなたが椿彩さんですね。珠世と申します。突然呼びつけてごめんなさい。愈史郎を助けてくださって、ありがとうございました」
愈史郎の言っていた通り、彼女も鬼だ。けれどとても美しい。
今まで対峙してきた鬼とは違う何かを感じる。
「愈史郎から聞いていると思いますが、私も彼も鬼です。私は鬼舞辻の呪いを外していますし、愈史郎は私が鬼にしました。そして、あなた方鬼殺隊と同じく、私たちも鬼舞辻無惨を倒したいと思っています。現在、炭治郎さんにも協力していただいて、鬼の血を採取したり禰豆子さんの血の変化を調べさせてもらっています」
『そうだったんですね。炭治郎と禰豆子ちゃんが…』
炭治郎が鬼と戦った後に何かこそこそ作業していたのは、鬼の血を採っていたのか。
『珠世さん、愈史郎さん、私にも何か協力できることはありますか?必要であれば私の血も採ってもらっていいですよ』
「なんでお前なんかの血をもらわないといけないんだ。要らん!」
「愈史郎。そんな強い言葉を浴びせるものではありませんよ。椿彩さんはあなたを助けてくれたんだから」
「はい!珠世様!」
珠世に対してだけ素直になる愈史郎を見て微笑ましくなる椿彩。
『信じてもらえないかもしれませんが、私、今から100年くらい後の世界から来たんです。だからこの時代の他の人と食べてきたものも違うし、血の栄養分も高いんじゃないかと思うんです』
「それは…!興味深いですね。……不快に思われるかもしれませんが、私たちは金銭に余裕のない方々から輸血と称して血を買って、それを少量飲むだけで事足りています。100年後の世界から来たという椿彩さんの血液を提供していただくことで、医者として輸血に使える血液や、禰豆子さんを人間に戻す薬の開発にも役立つかもしれない…」
椿彩の提案に、案外肯定的な珠世。
その背後で愈史郎が心底不満そうに顔を歪めていた。
「……ところで、お招きしておいてこんなことを聞くのもおかしいとは思いますが…どうして私たちにそんなに気を許してくださっているのですか?」
『え?…だって悪い人じゃないって分かります。鼻の利く炭治郎が既に協力していて、禰豆子ちゃんを人間に戻そうとしてくれてるし。それに、敵の敵は味方っていうでしょ?一緒に鬼舞辻無惨を倒しましょう!』
椿彩の返答に、珠世が目を潤ませる。
「…ありがとう。あなたも、私たちに“人”という言葉を使ってくださるのですね……」
『当たり前ですよ!私にできることがあったら何でも言ってくださいね』
珠世と椿彩が手を取り合って微笑む。
ついでに愈史郎も珠世に言われて椿彩と握手をさせられた。
早速、珠世が椿彩の血液を採り、 それを調べる。
「…!本当…椿彩さんの血液は栄養分が高いみたいですね……。そしてとても綺麗な血です」
『よかった〜!元いた世界でもこっちでも、食事には気を遣ってるんです』
「他にも調べたら色々分かると思うので、詳しくはこの子を通して連絡しますね。…茶々丸、いらっしゃい」
にゃおーん
『あっ、猫?』
「私の使い猫です。炭治郎さんが採取してくださった鬼の血も、この子が私のところへ届けてくれているのです」
『そうなんですね。…茶々丸くん、おいで』
椿彩がしゃがんで手を差し出すと、茶々丸が喉を鳴らして擦り寄っていった。
『わあ、懐っこい。可愛い〜!』
動物は言葉を話さないが、とても敏感で正直だ。警戒心の強い茶々丸がすぐに懐いたのを見て驚いた愈史郎は、その光景に椿彩を信じてみようと思ったのだった。
つづく