「リリーさん泣いていませんか?」
俺にもそう見える。そして爺さんはリリーさんの頭をポンポンしてる。
気安く触んじゃねー!!
「あれ?今度は笑っていますよ?」
「何だか楽しそうだね」
くそっ!!俺もリリーさんに頭ポンポンされたいっ!!
間違えた。したい!!
「なんか手を振ってるから行こうか」
爺さんが手招きをしている。話は終わったようだ。
二人に近づいて声をかける。
「リリーさん。もう大丈夫ですか?」
「ああ。ありがとう。セイに出会えて良かったよ」
えっ!?まさかリリーさん…俺のことをそこまで……
「セイ。儂らは婚姻を結ぶことになったから、これからもよろしくのう」
「こ、婚姻!?リリーさんそんな…まだ早いですよ…いや、リリーさんがいいなら…」
ん?誰と…?
「え…ええええええええええっ!?」
ジジイとか!?まさかリリーさんジジコンなのか!?
「セイさん。失礼ですよ?」
「だって…」
「セイさん。空気読みましょう?」
「空気?何それ美味いの?」
「セイくん。動揺しすぎだよ。リリーさんを見てたらわかってたでしょ?」
確かに…薄々…いや、かなり気付いてましたとも。でも認めたくないじゃん?
爺さんは金を持ってないから遺産目当てでもないんだよ?
こんなジジイに負けるとは……
「お、おめでとう。ござい…ます」
「うむ。儂はこんな年寄りやめておけとゆうたんじゃが…」
「私がビクトール様を看取ります!!一緒に死ぬことは許していただけませんでしたが、看取ることは許されました!みんな証人だぞ?」
やだよ。そんな証人……
その後、結婚祝いとしてまた連日のパーティとなった。
この世界では結婚式などない。王侯貴族を除いてな。
親族や知り合いを集めての食事会などで祝うようだ。
それを結婚式と言えばそうなるが…結婚式でミランに通じたのが貴族達の結婚パレードだったから、やはり違うようだ。
結婚は、二人で教会などに行き、承認してもらうようだ。村なら村長。教会がない所なら立場の高い人の許可だな。
この街にも教会はあるが、証人は俺達なので承認も俺達がすれば良いらしい。
反対!反対!反対!反対!反対!
聖奈さん達は料理の準備で大忙しなので、リリーにはエリーがついている。爺さんには俺だな。
ちなみにリリーは『家族になったようなものなんだから、さん付けなど不要だ』と言ってきた。
じゃあ!俺と結婚しろよ!
聞きたくもなかったが、爺さんに聞かされた話によると……
一、リリーは子供(11歳)の時暴漢に襲われ誘拐された。
一、それを約10年前の爺さんが両親から依頼を受けて助けに行ったようだ。
一、爺さんは見事犯人を倒して、助けられたリリーは辱められたからか、その場で自害しようとしたらしい。
一、爺さんは年の功で何とか生きてくれと説得したらしい。
その時にリリーが『じゃあこんな汚れた私が大人になったら貰ってくれるの!?』と言って爺さんを脅した。爺さんは『こんな美人なら大歓迎』だと笑って言ったらしい。
『その代わり、儂の嫁になるなら儂が認める強さがなくてはならぬぞ?』
それがリリーさんの強さの原動力だとさ……
ぶっ◯すぞジジイ!!
「いやー。そんなこともあったのう。話を聞いた時は忘れていたわい!しかし、あの時の決意に満ちた目は覚えておった。
兎にも角にも、これで老後は安心じゃて」
何がフォッフォッだ!老後は今だろうが!!
それにアンタはあと100年は死なねーよ!
「まぁ、良かったんじゃねーの?リリーさんも」
「なんじゃ?何を不貞ておる。セイには3人も美人な嫁候補がおるじゃろ」
「いや嫁候補って…二人は妹…娘みたいな存在だし、聖奈に至っては無理だぞ。向こうも相手にしないだろうし、俺も聖奈以外がいい。一生虐められそうだし…」
聖奈さんはビジネスパートナー兼仲間だからな。
家族のような存在であって、恋人のような存在とは対極だな。
エリーとミランは…今後に期待だな。理想は10年後のミランと結婚したいけど…その頃には俺はいいおっさんだから嫌われているだろうし…悲しいが……
エリーは…危なっかしすぎて……
いやいや!何を考えているんだ!?俺の目標はハーレム王だぞ!?
女は星の数ほどいるんだ!乞うご期待!!
「なんじゃ…まぁよかろう。若いというのは良いものじゃが、その時間はすぐに過ぎるでな」
「なんか意味深だな…まぁ、兎に角結婚おめでとう。
どこに住むんだ?流石に床も無いような所には奥さんを住まわせられないだろ?」
「ん?ここに部屋がようけ余っておるだろ?そこに住むぞい」
ここかよ…爺さん一人なら構わなかったけど、リリーも住むんだぞ?
はぁ。
まぁいいか。聖奈さん達が良ければ。
どうせ旅に出た時の管理人を、爺さんに弟子卒業と同時に頼んだんだ。二人で好きに使ってくれ。ただし!俺のベッドは使うなよ!色んな意味で嫌だからな!
夕方、二人の結婚祝いは厳かに行われなかった。
どんちゃん騒ぎだ。
「リリーさんおめでとうございます。私も幸せな二人のように早く結婚したいです」チラッ
「リリーさん!お爺ちゃん!おめでとうです!これからもよろしくです!」
「リリーさん。ビクトールさん。おめでとうございます。お二人の人生に幸多からんことを」
「爺さん。リリー。なんだか急なことで理解が追いつかないが…幸せにな。後、部屋は今の二部屋を好きに使ってくれたら良い」
同じような挨拶だが、誰がどのセリフかわかるな…エリーはこの後のことが頭から離れなくてずっとテンションが高い。
ミランは相変わらずのポーカーフェイスだな。心の中は小躍りしているだろうが。
「私もお呼ばれしてしまったが、まさかビクトールが結婚とはな…それも私の娘よりも若くセイレーン冒険者組合の有望株と…まあ両方とも幸せにな」
「組合長も行くということで、私まで来てしまいました。皆さん先日は助けていただきありがとうございました。お二人の行先が笑顔で溢れていますように」
組合長のリンドーンさんは何だが気まずそうだ。わかるぞ。あまりに歳が離れていると、こっちでも同じ反応になるんだな。爺さんは決してロリコンでも若い娘好きでもないのは、弟子である俺はよく知っているから良いが、世間の目はどうなんだろうな?
まぁ、二人とも気にするタイプじゃないか。
マークさんは小さくなっているな。酒でも飲んで気楽にしてくれたらいいけど。
上司と一緒だと無理だよな。
そして、リリーの両親は呼べていない。リリーの里はここから馬車で2日くらいの距離があるので、報告は後日みたいだ。
なので後は……
「リリーおめでとう!夢が叶って良かったね!」
「リリーおめでとう!ずっとこの日の為に努力し続けていたんだから、離しちゃダメよ」
リリーの元パーティメンバーの二人が駆けつけてくれた。
名前は端折る。
だって二人とも既婚者なんだもん……
リリーに負けず劣らずの美人さんだけど、既婚者か…馬鹿野郎ーーー!
「みんな態々集まってくれてすまんのう。この席は元弟子とその仲間が用意してくれた。そして、この出会いも。これからはリリーと二人でセイの家を守っていけれたらと、思うとる。
元とは言え、弟子に出来る数少ないことじゃからのう。
皆、ありがとう。これからも儂とリリーをよろしく頼む」
パチパチパチパチ
「みんなありがとう。元パーティメンバーの二人には特に心配を掛けた。私も漸く寄り添えるモノを見つけられた。
不束者だが、これからもよろしく頼む」
パチパチパチパチ
さて挨拶も終わったことだし、地球式のイベントをするか!ミランとエリーが待ちきれなくなっているしな!
「ジャジャーン!!二人には初めての共同作業をしてもらいます!」
台車に乗せたウエディングケーキを運びながら、聖奈さんが告げる。
ケーキは3段のかなり大きなモノで、純白のホイップでコーティングされていてフルーツも盛り沢山だ。
最上段はこれでもかとイチゴが乗っている。
「ふっ。ふっ。ふっ」
「はっ。はっ。はっ」
二人とも、待てだぞ?というか、過呼吸で倒れるなよ…?
美少女が出してはいけない音が聞こえるぞ……
「おお!これは凄いな。これもセーナ殿が?どうだ?ウチの末っ子の嫁に来ないか?」
「セーナちゃん凄すぎるわ…何かわからないけどこれは凄いものよ…わかるわ」
みんな初めての生クリームでデコレーションされたケーキを見て、驚愕している。
後、組合長。聖奈さんが嫁に来たら家を乗っ取られるぞ?
「共同作業?はて?なんじゃろな」
「新婚のお二人にこのケーキを切ってもらいます!」
「斬る…のは得意だが、食べ物を『切る』のは苦手だな…」
リリーは台車ごと斬りそうだからやめてな。
爺さんはケーキを爆発させそうだし。
「では、こちらのナイフでお願いします」
そう二人に伝えて、聖奈さんは長いナイフを渡した。
二人はぎこちないながらも何とかケーキに入刀出来た。
その後は聖奈さんに代わり、みんなに切り分けてケーキを渡した。
だが……
「二人はちゃんとご飯を食べてからね」
エリーとミランはこの世の終わりみたいな顔をしていた。
〓〓〓〓〓〓〓〓小話〓〓〓〓〓〓〓〓
ミラン「あのっ!エリーさんのケーキの方が大きいのですがっ!」
聖(ミランも自己主張するようになってくれたか。くだらん内容だけど…)
聖奈「じゃあ交換する?ミランちゃんの方にはイチゴが多く乗ってるけど?」
エリー「交換しましょ!?」
ミラン「いえ。私は大人なので我慢します」
水都編はもうしばらく続きます。
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