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Q:水道の蛇口が壊れた時、最初にすべきことは何か?
A:止水栓や元栓を閉めて、これ以上、水が出てくるのを止める。
Q:では、ウィルスの流行を止めるには?
A:ウィルスがこれ以上広まらなければいい。
単純かつ、難しい話だ。
ワクチン。それが一番の手かもしれないと明王は思った。一定数以上の人間がウィルスに対する免疫を持ち得ることが出来れば、ウィルスは伝染する相手を見付けることができなくなり、封じ込めは成功するかもしれない。
ウィルス研究者にワクチンの組成式と製造法を伝えるため、不動明王は随分と骨を折った。匿名の封書を何通もWHOが所有する研究所や製薬会社のラボへ送ってみたが反応は丸でなかった。どうやら、手の込んだ悪戯と思われたらしい……
ワクチンの生成法をデータ化して、ウィルス研究所のメインフレームに直接送り込むことも試したが、ブロック壁に泥団子を投げつけたのと同じように、頑強なファイア・ウォールが明王が送付したデータを粉々に破壊した。
考えたすえ、不動明王は昔ながらの手段を取ることに決めた。
「夢枕に立つ」のだ。
古来より、夢が人の心に作用し、それが現実化するといったエピソードは数多く存在する。
イギリスの小説家メアリー・シェリーは怪物に追いかけ回される悪夢を見、その体験を元に有名な「フランケン・シュタインの怪物」を書き上げた。イタリアの音楽家タルティーニは、夢の中で悪魔が奏でていたバイオリン曲を目が覚めてもハッキリと覚えており、直ぐに楽譜に書き起こし「悪魔のトリル」という名曲を作った。
近年でも、アメリカのあるプログラマーは、自分の見た夢の中で、自由自在に自分の知りたい情報にアクセスできる魔法のような検索システムに出会った。そして、夢の中の体験がベースとなり、Googleの検索エンジンの原型を作ることに成功したという例がある。
問題は、浅い眠りである「レム睡眠時」に明王が夢枕に立つことが出来れば、学者たちは目を覚ました後も、幾分か夢の内容を覚えている可能性がある。だが、深い眠りである「ノンレム睡眠時」に明王がいくら説明したところで、目覚めと共に学者たちの脳内から記憶は飛んでしまう。
もう一つの問題もあった、一人の科学者の夢枕に連続して立つ方が効果的なのか、それとも様々な科学者たちの夢枕に立つ方がよいのか……
結局、不動明王の目から見てこれはと思える数百人の科学者をピックアップすると、彼ら彼女らの夢枕に立ち、ワクチンの組成式と製造法について詳しくレクチャーした。この中の何人が眠りから覚めた後も夢の内容を記憶していてくれるのかは、未知の領域だった。
ひょっとしたら異教の神が自分の夢の中に出てきたことで、酷い嫌悪感を抱いた学者もいたかもしれない。
ーーまぁ、いい。種は撒いた。次の仕事に取り掛かろう。