「君に任せてから売上も順調に伸びている。これからもよろしくお願いするよ。そうだ、鏡子さんはお元気かな?」
「一堂社長、いつも妻のことまで気にかけて頂いてありがとうございます。はい、とても元気にしています」
「それは良かった。またいつでも一緒に遊びにきなさい。待ってるよ」
「ありがとうございます! ぜひ伺います」
お父様、優木さんをずいぶん気にいってるのね。
「では麗華さん、そろそろスタンバイよろしくお願いします」
「は~い」
スタッフに呼ばれ、私は撮影に挑んだ。
1人でのカット、モデル数名でのカット、全てが段取り通りに進んでいく。
美しく華やかで明るいイメージ、大ヒットCMになる予感しかしない。
外での撮影は無事に終了し、またスタジオに戻った時、お父様が私に話しかけてきた。
「お疲れ様。良かったじゃないか」
「ありがとう。演出もカメラマンもみんな一流だったからよ。もちろんモデルもね」
「ああ、そうだな。CM、楽しみにしているよ。ところで麗華、少し話しておきたいことがある」
お父様の言葉を聞いて嫌な予感がした。
「あの人達のことなら言わないで。今、すごく気分が良いんだから」
「麗華。お前は充分大人じゃないか。いい加減に家族の存在を認められないのか?」
やっぱりまたその話。
うんざりなんだけど。
「無理よ。私にとって母親はお母様だけ。なのにあんな人を連れてきて。亡くなったお母様が可哀想だわ」
「お前のお母さんが亡くなる前、麗華のためにも新し母親を……と願っていたのはお母さんなんだ。お前も本当はわかっているんだろう?」
確かに、お母様はそう言った。
新しいお母さんができたら仲良くしなさいって。
私は、空の上からずっとあなたを見守ってるからって。
でも……
理屈ではわかっていても、気持ちは許せない。
お母様の代わりなんてどこにもいないんだから。
「それに、彩葉のことも……」
「彩葉さんは誰だかわからない男の子どもを産んだ人よ。お父様の立場も考えずに、恥知らずだわ。身内にそんな人がいるなんて最低よ」
大人しいと思ってた彩葉さんが、あんなことするなんて。
いったいどこの誰と……
「彩葉はちゃんと母親として雪都を育てている。仕事もして、きちんと生活しているんだ。今さら誰の子かなんて関係ない。彩葉が幸せならそれでいいじゃないか」
「ずいぶん彩葉さんを大事に思ってるのね。お父様は、血の繋がりのある私よりも彩葉さんの方が可愛いんでしょ?」
「やめなさい。私は麗華も彩葉も娘として同じように可愛い。そんなことは当たり前じゃないか」
真剣なお父様の目、ちょっと怖い。
「と、とにかく、私には関係のない話よ」
「麗華……この話はまたにしよう。ただ、お前もそろそろきちんと結婚を考えてみないか? お見合い相手ならいくらでも……」
「私にお見合い相手なんて必要ないわ。せっかく慶都さんならとお受けしたのに、向こうから断ってくるなんて。本当に失礼だし、あんなこと二度とごめんだわ」
あの時の悔しさは忘れられない。
この私とのお見合いを断るなんて酷すぎる。
「麗華、お前のことが心配なんだ。私は、母親みたいにはいかないが、ずっとお前の幸せを願ってきた。お前の母親も、今のお母さんも、ずっとそれを願っている。それに、彩葉もだ。みんなお前を大事に……」
「話はそれだけ? 何度言われても仲良くするつもりはないから。結婚は……今はまだわからない。でも、私の人生なんだから好きにさせてちょうだい。私のことは気にせずに、お父様は彩葉さんと雪都を大事にすればいいのよ!」
無性に腹立たしい思いが私を包む。
黒い雲が胸に広がって、ものすごく嫌な気分。
仕事が上手くいったのに、この悔しい気持ちはいったい何なの?
私は、新色の口紅を握りしめながら、グッと唇を噛み締めた。
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