テラーノベル
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1、星野エメル
私が生まれ変わった世界は、戦争もなく、平和だ。誰かが戦争に駆り出され、死ぬこともない。戦地で手足が千切れ飛ぶ恋人の姿を見なくても良い。
だけど、心にぽっかり穴が空いているような感覚がする。この世界は平和だが、何故か嬉しくない。喜べない。……理由はすぐに分かった。
この世界には、シーナたちがいない。模擬戦の時、励まし合うことも、痛みを分かち合うこともできない。
…私はあの世界に戻りたいのだろうか。
2、トツキ・シーナ
双子の妹・ミーナが死んだ翌日。トツキ・シーナは無感情な先生の声をぼんやりと聞いていた。
「昨夜の西地区第2ポイント周辺への襲撃により、不運にもこのクラスから1人、犠牲者が出てしまいました。彼女の健闘を讃えるとともに、残された我々は一層日々の訓練に励み、能力の向上を__」
誰かが死んだ時用の、いつもの言葉。
誰が死んでも、また同じ毎日が始まる。悲しむ暇なんてない。
「8番、トツキ・シーナ。貴女は亡くなった彼女の姉でしたね。今日の授業を免除するので、部屋の整理をお願いします」
「はい……」
ミーナが使っていた、4番、5番の人用の部屋に向かう。ミーナと同室だった少女も、ミーナが亡くなる1ヶ月前に戦死したため、遺品整理は姉であるシーナがすることになった。
手を動かしながら、シーナはミーナが消える瞬間のことを思い出していた。この学校の生徒は、戦地で亡くなった瞬間身体が消えるように首輪をさせられている。だからミーナも5番の彼女も、死ぬと遺体は残らなかった。
あの首輪さえ外せていれば、あの子をアリに会わせることができたのだろうか。ミーナが死んだ日、アリは雨に濡れたせいで風邪を引いていた。そのためアリとミーナが最後に会ったのは、一昨日の夜、ミーナが召集された時になる。アリとミーナは良い友達だった。最期くらい会わせてあげたかった。
「…シーナ…?」
「大丈夫、シーナ?」
ミミとアリの声で、はっと我に帰る。いつの間にか昼になっていたようだ。
「ミミ、アリ…」
「ミミも手伝う!」
と、ミミが張り切って机の引き出しを開けるが、もうシーナが整理した後で、もう中は空っぽだった。
「もう終わっちゃったんだ。遺品整理…ありがとね」
「そっかぁ…」
ショボくれるミミ。だけどすぐにいつもの調子に戻り、まとめた荷物たちを指差す。
「これ、どうするの?」
「学校に返す物以外は返礼の日に出そうと思って。もう使わないし…」
シーナが答えると、ミミが寂しそうな声を出した。
「あげちゃうの!?…シーナ、使ってあげないの?」
「うん。……もう使えなくなってるのも多いし…」
「そっか……」
その日は3人でお風呂に入り、ご飯を食べ、川の字になって寝た。寝る前にアリが呟く。
「……明日の祈りの時間、みんなで行きましょうね…」
ミミとシーナも頷いた。
「うん…」
翌日、先生からの朝のお話の後、地下の講堂に向かう。先生が祈りの言葉を唱えてる間に、空の棺に花や持ち寄ったものを入れていくのだ。シーナたちは3人、花を持って並び、自分の番が来るのを待っていた。
「…次、シーナの番だよ」
「うん……」
花を持つ手が震える。それでもなんとか花を置き、呟いた。
「バイバイ」
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